- 塩津丈洋植物研究所 塩津丈洋・久実子
- 2010年、 植物の治療・保全を主とした塩津丈洋植物研究所が設立。
日本の山野草木を、知り・触れ・学び・育てる、体験型のwork shopの開催 ( 盆栽・苔玉 )。植物を生かした display や造園など、人と植物のより良い暮らしを提案している。
芽のふくらみが植え替えの合図【四季を楽しむ山野鉢】
季節の移り変わりを豊かに感じられるのは日本の魅力。こちらの連載「四季を楽しむ山野鉢(さんやばち)」では、和の植物の専門家・塩津さんと身近にある植物を育てながら、その幸せをお届けします!
Pacoma読者のみなさん、はじめまして。「塩津丈洋植物研究所」を営む塩津丈洋です。
僕は普段、妻の久実子とともに、植物について学ぶワークショップや植物の生育問題を解決する治療など、「植物の魅力を多くの人に伝える」べくさまざまな活動に取り組んでいます。
造語になりますが、僕はよく日本の草木のことを「山野草木(さんやそうもく)」と呼んでいます。また、その草木が入る鉢のことを「山野鉢(さんやばち)」と表現しています。今回僕たちからご提案させていただくのは、そんな日本の草木を育て、日本の四季を楽しむ暮らしです。
本来、在来種である和の植物は、ほかのどんな植物よりも、日本の四季のなかでのびのび成長してくれます。また、桜やケヤキなど「樹木」の印象が強い植物も、実は小さな鉢植えで簡単に育てることができるんです。
今回は、そんな和の植物の魅力を知ってもらうために、誰にでも簡単な育て方やメンテナンス法を含め、年間を通して、日本の草木と触れ合いながら四季を楽しむ豊かさを、みなさんにお伝えできればと思っています。
目次
植物が芽吹く3月のテーマは「植え替え」
日に日に気温が上昇し、春はもうすぐそこ。冬眠していた植物たちは、暖かくなってくると一斉に起き上がり、芽を膨らませ、葉っぱを開きます。
そんなタイミングで行うのが、「植え替え」です。
僕たちは2年に1回、冬を越えて暖かくなってきた時期の植え替えをオススメしています。ただし、ベストなタイミングは地域によっても植物によっても違い、“芽が膨らんできて開く直前”を見極めて行うのが成功の秘訣です。
栄養分が抜けてスカスカになった土を入れ替え、ギュウギュウに伸びた根っこを整えると、植物が元気に育ちますよ。
これぐらい芽が膨らんできたら、植え替えのベストタイミング。
誰でもできる鉢物の植え替えをわかりやすく解説
今回は桜の苗木を使って、鉢物の植え替え方法を解説します。もちろん、桜以外の和の植物も同じ方法で大丈夫。「植え替えは難しいもの」というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、正しい手順で行えば、実は誰でも簡単にできるんです。
植え替えに必要なもの
- 植え替え用の鉢 1つ(元々の植木鉢と同サイズ、または一回り小さいもの)
- 植え替え用の土3種
- 富士砂(ふじすな)
- 化土土(けとつち)
- 赤玉土(あかだまつち)
- コケ 適量
- 植木用はさみ 1本
- 土入れ 1本
- トレー 1つ
- ネット 1つ
- アルミ線 1本(約10cm)
- 竹箸(古い箸でも可) 1本
- 霧吹きまたはじょうろ 1つ
- 水道水 適量
植え替えの手順
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植え替えたい鉢の底にネットを敷き、アルミ線を使ってしっかりと固定します。
これにより、土の流出と、外にいる虫が鉢に入り込んで植物に悪さをするのを防ぎます。 -
底からはみ出た余分なアルミ線は、カットしましょう。
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トレーに富士砂と化土土を入れ、手でまんべんなく混ぜます。
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そこに赤玉土を加え、粒を残さないようにフワッと混ぜます。
粒の大きさは均一に揃っている状態がベスト。化土土の塊は指でつぶして、均等にしましょう。 - 覚えよう!それぞれの土の特性
- 富士砂…富士山の溶岩層を砕いたもの。水はけと通気性を良くしてくれる。
- 化土土…水性植物の腐葉土で肥料分が豊かな土。水持ちを良くしてくれる。
- 赤玉土…弱酸性で、使う植物を選ばない優等生。保水性・通気性・排水性・保肥性、全てにおいてバランスがいい
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植木鉢から植物を取り出し、竹箸を使って根っこをほぐしながら、古い土を取り除きます。
根っこが伸びて、グルグルと曲がった状態になっているので、真っ直ぐ伸ばしてあげましょう。根っこをほどくと枝も素直に育ちます。
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土の取り除き加減は、これぐらい。古い土は8割ほど取り除き、新鮮な土に交換します。
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根っこの下部から全体の1/2 ~ 2/3を、はさみで切り落とします。もし、ほかに比べて太い根っこがあったら、根本から切り落としてください。根と枝は比例しています。
太い根を切り落とすことで、細かな根が生え、地上部も細かな枝が生えてきます。 -
根を切り終えた状態がこちら。
少し勇気がいりますが、芽が開く前なら植物は眠った状態で痛くないので大丈夫。思い切ってバッサリ切りましょう。 -
植え替える鉢に、「手順4」で準備しておいた土を、底のネットが隠れるまで敷きます。
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植物を入れて上から土をかぶせ、根っこが隠れたら、竹箸を使って表面の土を優しく突き刺してください。これにより根っこと根っこの隙間にも土が入り込むため、木が安定し、根っこの定着を早めます。
このひと手間は差が出るポイント。
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土の表面に溢れるぐらい、たっぷり水をかけます。
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土の上にコケを敷き詰めます。
このコケは見た目をグッとオシャレにしてくれるだけでなく、保水性もバッチリ。夏場の乾燥を防ぎ、植物を守ってくれます。 -
最後に、植物の頭の上から霧吹きまたはじょうろで優しく水をかけましょう。
日々の水やりもこの方法で。枝葉についている虫やほこりも洗い流せます。
これらを混ぜることで、最適なバランスの土になります。
植物も人間と同じように一つひとつ成長スピードが違う
人間の成長スピードが一人ひとり異なるように、植物も、水を飲むスピードや花が咲くタイミングなどが、それぞれ違います。
「3月になったら植え替え」「1日に1回水やり」などの定量的な説明は分かりやすいですが、できれば様子をよく観察して、ベストなお手入れの時期を見極めてあげてください。
水やりのタイミングは「触って」確かめる
水をあげるタイミングは、植物を触って確かめるのが一番。
鉢物なら植木鉢を手で持つと、水が残っているかどうかが重さでわかります。
また、土やコケを指で触ってみましょう。表面が乾いて鉢が軽くなったら、水を欲しがっている合図。先ほどの手順通り、枝や葉っぱにまで水分が染み渡るよう、たっぷり水をあげましょう。
植物の置き場所は、朝に日があたる「東側」がベスト
水と同じく植物に欠かせないのが、太陽の日差しと風通し。
植物は常に呼吸し日光を浴びて光合成をしているため、基本的に日当たりがいい屋外に置いてあげましょう。植物の活動時間は太陽と一緒なので、朝日が昇る東側がベスト。ベランダが南側にある場合は、南でも大丈夫です。
家の中に植物を飾るのは「特別な日」だけ
一番良くないのは、日当たりがいいからといって室内に置いておくこと。
室内は風通しが悪く、エアコン等により屋外との温度差が生じることもあるため、植物の本来の成長スピードとのズレによる狂い咲きや、枯れてしまう原因になります。なるべく屋外に出して、地球の気候に合わせてあげましょう。
僕たちは、家にお客さんが来るときや記念日に食事をするときなど、少し特別感を演出したいときだけ、家の中に植物を飾っています。いつも飾りっぱなしより、意識して日常の生活に植物で彩りを加えるって、豊かな行為ですよね。そして、自分の手で育てた植物の開花と共に春の訪れを感じるのも、また格別なものです。
執筆・編集協力/小林香織
撮影/飯岡拓也