
- 塩津丈洋植物研究所 塩津丈洋・久実子
- 2010年、 植物の治療・保全を主とした塩津丈洋植物研究所が設立。
日本の山野草木を、知り・触れ・学び・育てる、体験型のwork shopの開催 ( 盆栽・苔玉 )。植物を生かした display や造園など、人と植物のより良い暮らしを提案している。
和の植物の専門家・塩津さんと、身近な植物を育てながら豊かな暮らしをお届けする連載記事です。今回は、涼しげな見た目で大人気の「苔玉」を作ります。ひと手間加えるだけで、丸いフォルムが魅力的な苔玉が完成しますよ!
目次
気温が上昇し、汗ばむ陽気の日も増えましたね。まさに、新緑の季節! そんな時期にピッタリなのが、「苔玉(こけだま)」です。夏が近づくと、花屋などで売られている姿をよく目にしますよね。
今でこそメジャーになった苔玉ですが、実はいつどのようにして誕生したかはハッキリしていないんです。一番有力とされているのは、盆栽で使われる「根洗い」と呼ばれる手法からヒントを得、誕生したという説。
根洗いとは、植物の根を太くなるまで成長させ、直接空気に触れても枯れない状態にすることです。
根っこは太くなると、まるで木の幹のような状態になります。その植物の根を水で洗い、根っこがむき出しのまま放置しておくと、苔の胞子が付着して、知らぬ間に根っこが苔でいっぱいになります。
苔で包まれたその状態がたまたま美しかったために、「苔玉」が広まったのではないかと言われています。まさに、偶然の産物ですね。
苔玉に使う植物には、向き・不向きがあります。基本的には水を好むもの、根っこがしっかりとした生命力が強いものがベスト。具体的には、以下のようなシダ類の植物がオススメです。
苔玉は、丸い形をキープするため目の細かい化土土(けとつち)を多めに使います。ただ、そうすると繊細で弱い植物は、根っこが土に負けて窒息死してしまうんです。また、海外の植物は冬場の寒さに耐えられないため、苔玉にはやはり日本の植物がいいですね。
苔はハイゴケを使いましょう。市販の苔玉も、8割はハイゴケが使われています。日差しに強く成長スピードが速いハイゴケは、苔玉にピッタリです。
さっそく、苔玉作りにチャレンジしてみましょう! 難しそうな印象があるかもしれませんが、コツを掴めばキレイな丸い形の苔玉を作れるようになりますよ。今回はトクサを使います。すべての材料は、こちら。
なんとも味わい深い姿の苔玉が完成しました。ポットに入っていたときには想像できないほど、美しくなりましたよね。苔玉を元気に育てるためには、ちょっとしたテクニックが必要です。でも、以下の4つのポイントさえしっかり押さえておけば大丈夫!
苔は日陰に生えるイメージがあるので、つい暗い場所に置いてしまいがちですが、ハイゴケは日陰で育つ苔ではありません。ほかの和の植物と同様に、やさしい日差しが注ぐ東側に置くのがベストです。
苔玉の水やりは鉢植えの植物とは違い、頭から水をかけるだけでは不十分。先ほどの手順どおり、ボールまたはバケツに水を入れて、そのなかに5分ほど苔玉を沈めてください。水を吸収すると最初は浮いていた苔玉が沈むので、沈んだら取り出してOK。毎朝、指で苔の表面を触り、乾いていたらこの方法で水をあげましょう。
花屋などでは、水が溜まった皿の上に苔玉が置かれている光景を目にすることがあります。ただし、本来そのやり方はNG。皿に水を溜めずに苔玉を置くのが正解です。ボールに浸けて水を吸収させたあとは、しっかりと水を切ってから皿に置くようにしましょう。
苔玉を育てていくと、植物の根が成長し苔から飛び出してきますが、そのままにしていても問題ありません。先端が細い根っこなので、そのうち枯れてなくなります。要するに根詰まりをしないんです。でも、年月が経つにつれ土の栄養分がなくなってしまうため、やはり植え替えは必要。2~3年に1度を目安に行いましょう。
6月のテーマは、夏の植物の育て方と題し「挿し木」の方法をご紹介します。これを覚えれば、暑い夏場でも植物が元気に育ちます。お楽しみに!
執筆・編集協力/小林香織
撮影/猿田祐樹