
- 塩津丈洋植物研究所 塩津丈洋・久実子
- 2010年、 植物の治療・保全を主とした塩津丈洋植物研究所が設立。
日本の山野草木を、知り・触れ・学び・育てる、体験型のwork shopの開催 ( 盆栽・苔玉 )。植物を生かした display や造園など、人と植物のより良い暮らしを提案している。
和の植物の専門家・塩津さんと、身近な植物を育てながら豊かな暮らしをお届けする連載企画です。みなさんは、植物の分身を作ることができる「挿し木」という手法を知っていますか? これを覚えておくと、さまざまな植物に応用できてとっても便利ですよ!
目次
ジメジメとした梅雨の時期がやってきました。一般的には、不快指数が高い梅雨時期は嫌われがちですが、植物にとっては新梢(しんしょう)が固まり、一度成長が落ち着くタイミング。20℃前後の平均気温は根が活動しやすく、「挿し木」にピッタリの環境なんです。
挿し木とは、一言でいうと植物の「分身」を作ることができる手法。
植物を種で育てる場合、親にあたる植物と100%同じ性質を受け継ぐことはありません。親よりも進化した性質を持ったり、突然変異でまったく違う色の花が咲くなど、性質が明らかに変化したりすることも。
一方、挿し木を用いると、親の植物と100%同じ性質を持つ分身ができあがります。この手法を活用して生育されたのが、日本人が愛してやまないソメイヨシノ。実は日本のソメイヨシノのほとんどは、挿し木によって誕生したんですよ。
気候が穏やかで、植物の成長が旺盛な春(2月下旬~3月)も挿し木に適していますが、その際は「古い枝」を使います。ただし、梅雨時期の挿し木は古い枝はNG。今年伸びたばかりの発根力が強い「若い枝」を使いましょう。
その理由は、若い枝のほうが発根力が高いから。植物がグングン成長する春は古い枝でも十分育ちますが、梅雨の時期は同じようにはいきません。先端の色が薄い部分が若い枝の目印です。覚えておいてくださいね。
そして、挿し木に向いているオススメの植物はこちら。
ポイントは、しっかりと成長していてパワーがある植物の枝を使うこと。それが成功の秘訣です。
挿し木のポイントは、ズバリ枝と葉の「切り方」。ここが成功のカギを握ります。その他の工程はとても簡単で、小さなお子さんでもできるほど。今回はこのように立派に成長したグミを使います。
挿し木で使用するその他の材料は、こちら。
これまでの特集では植え替えや苔玉作りなど、完成してすぐ絵になるものばかりでしたが、挿し木直後の姿はこんな感じ。半分に切られたいびつな葉が、なんとも不思議な雰囲気ですよね。おおよそ2ヶ月で発根し始めます。3本植えたらそのうちの1本が発根するぐらいの割合ですね。
挿し木が成功して無事に発根すると、こんなに立派な姿に大変身! 見違えるほど素敵になりましたよね。
このように鉢の後ろから根っこが出るくらい成長していれば、もう大丈夫。来年の春には植え替えを行い、再び挿し木で分身を増やすこともできますよ。
挿し木を行った直後は、強風を避け、やさしい日差しが注ぐ東側に置くのがベスト。南側だと日差しが強すぎるため、すだれ等で遮光するといいでしょう。枝を動かすと発根しづらくなるため、一度場所を決めたら動かさず固定しておいてください。
1日1回、土の状態をチェックし、常に土が湿った状態にしておくのも大切です。土が乾燥して色が変わる前に水をあげるといいです。極端にあげすぎると枯れてしまうので、適量を心がけてください。このときも枝を動かさないよう水の勢いに気を付けながら、やさしくあげましょう。
本格的な暑さがやってくる7月のテーマは、「水辺の植物の育て方」。オシャレな水辺の植物を育てながら、暑い夏を涼しく乗りきりましょう!
執筆・編集協力/小林香織
撮影/猿田祐樹