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子育て
菅原さくら

Webプランナー・山本真也さん/「仕事が落ち着いたら家庭」ではなく、まずは家庭をよくしていく【夫婦のチームワーク vol.8】

今回登場してくれたのは、Web領域の制作プロダクション『SHIFTBRAIN』で、プランナーを務める山本真也さん。仕事が忙しくて家族のコミュニケーションがとれない日々を、なぜ変えようと思ったのか? 家事や育児は“自分ごと”――そんな男性にインタビューする連載です。

家族のためにも仕事のためにも、家庭を見直してみる

――広告会社に務める1歳年下の奥様と、3歳の娘さんと3人暮らし。家族や夫婦のコミュニケーションで、心がけていることはありますか?

正直、去年はひどかったんです。仕事が忙しくて、妻も娘も眠ってから帰ることがほとんど。朝も30分とか1時間くらいしか顔を合わせられない日々が、ずいぶん続きました。そうなると、やっぱり夫婦で喋る時間が全然とれない。妻からはもっと話そうとか、コミュニケーションが足りてないことに対してクレームがあったけれど、僕のほうの危機感が少なくて、改善には至っていませんでした。

でも、年末年始に10日くらい連休をとり、これまでのことを顧みてみたんです。いままで「コミュニケーションしなきゃいけないのはわかってるけど、仕事をするのも家族のためだし忙しいから仕方ない」とか「この仕事が一段落したらなんとかなるはず」って逃げてきたけど、この数年間まったくなんとかなっていない。ということは、方法論が間違っていたのかもしれなくて……だから、いったん順序を逆にしてみようと思ったんですよね。

――順序を逆、とはどういうことですか?

仕事が落ち着いてから家庭を立て直すんじゃなくて、先に家庭をよくしていく。まずは時間をとって、妻ともっとちゃんと話をしてみる。もう少し早く家に帰ってきて、ちゃんと座って、2人でビールでも飲みながら話すみたいな時間を、意識して取ろうと思ったんです。……まぁ、すごく当たり前のことなんですけど、こんな簡単なことを思いつくまでに、えらい時間がかかってしまいました。

――いや、当たり前でありたいけれど全然当たり前じゃない、尊いことだと思いますよ。どうして、順序を逆にしてみようと思えたのでしょうか。

昨年は、仕事で思うようにいかないことが多かったからだと思います。あんまり成長できていないとか、失敗したなと感じる場面が少なくなかったから、何かを改善しなきゃいけないと考えて……家庭を大事にしたら、全部解決するんじゃないかなって気がしたんです。

仕事が忙しいからって全然帰れていないと、家の中の雰囲気が悪くなったりするじゃないですか。そうすると、家が自分にとって心の休まらない場所になり、早く帰ろうというモチベーションが保てない。メリハリつければ早く帰れたかもしれないところを、だらだら作業してしまって、能率も下がっちゃったり……そんなの、いいことないですよね。たとえがむしゃらに仕事ができて、すごい速度で成長したとしても、それを永遠には続けられないし。

だから、家族にとって家庭を本当に安らげる場所にしていけば、まずはみんなハッピー。きっとそのあとに、いろんなことに対していい結果がついてくるんじゃないかと思ったんです。

――そう心がけるようになって、まず仕事にいい影響は出ましたか?

まだ始めたところですが、パキッと仕事をできている気がしますね。プランナーという仕事は、単純作業と違って、集中すればサクッと終わるかというとそうでもない。新しいアイディアを思いついたり、一つひとつのクオリティを上げるようなことは、生活とすごく繋がっているんじゃないかと思うんです。面白いことをいつ考えつくかなんて、コントロールできないし。そういう仕事をしている以上、一人の人間として当たり前のことをきちんとやりながら、普通に暮らしていくみたいなことが大事なんだろうなって思っています。

 

自分の役割をつくって、できることから育児にコミットする

――しかし、インタビュー中に山本さんに近づいたり、にこにこと話しかけてくる娘さんの様子から、パパ大好きなのが伝わってきます。

心がけを変えたことや娘の成長が関係あるのかもしれないけれど、最近、ようやくパパブームなんですよ(笑)。「どっちとお風呂入る?」って聞いたら「パパと入る」って言ったり、僕が「ちょっとコンビニ行ってくる」と言うと「わたしも行く」ってついてきたり。朝の支度や保育園の送りは僕がやっていたけれど、2歳くらいまではもっとそっけなかったから、父親って何なんだろうな、とか思ったりしてました。いざというときはやっぱり「ママがいい!」だったし。

――そこで「ママしか相手できないから、俺はいいや」ってスネたりはしなかったんですか?

うーん……。僕は、料理をするのがわりと好きなんですね。もともと土日の食事は僕が作るし、平日のためにおかずを作り置きしたりとか、黙々と手を動かすのが気持ちよかったりする。そういう仕事って子どもに直接感謝されたり、喜ばれるようなことじゃないけど……そこには自分の役割がちゃんとあるんです。それに助けられていた部分があるかもしれません。

妻は、あきらかに妻しかできないことを、それこそ妊娠してるときからたくさんやってくれているわけです。一方、俺にしかできないことは、残念ながらなくて(笑)。もちろん無力だなと感じるけれど、でも「このまま何もしねえやつだと思われるのは悔しい」とか「俺だってちょっとは役に立ちたい」とも思う。妻にも娘にも、仕事しかしない人だと思われるのはイヤだから、意地になって家事をしているところもあるんですよ。

――奥様の役割とは違うところに、自分の役割を見つけるというのはいいですね。育児へコミットできる割合が違っても、お互いにわかりあえる気がします。

とはいえ、細かいことでぶつかったりもしますよ。やっぱり、子どものいろんなことを考えている時間は、妻のほうが圧倒的に長いんです。僕も考えていないわけじゃないんだけど、わりと放任主義の家庭で育ってきたこともあって、娘に対しても「なんとでもなるでしょ」と思ってる。だから、温度差があるんですよね。

たとえば小さな例をあげると、娘の洋服なんて、僕は絶望的に興味がないんです(笑)。すぐ汚れるし小さくなるし、ご飯粒たくさんつけて帰ってくるし、別に何を着てもかわいいし、ファストファッションでいいと思ってるんですよ。だから、子ども服を見に行くイベントには参加しないことになりました(笑)。

あとは、習い事。英語とかピアノとか、やるなら小さいときから始めたほうがいいことって多分あると思うんです。でも、何もできない1歳くらいのころって、なかなかそういうことを考えるのが難しい。最近はようやく歌が歌らしくなってきたから、歌の教室に行かせたら楽しくやるんじゃないかなぁとか、リアリティが出てきましたね。娘の成長に引きずられて、僕の興味や関心も伸びていくんだなと思います。

▲ずっと音楽をやっていて、いまでも趣味で続けている山本さん。「娘もギターを好きになってくれたらいいなと思っていたら、マイクを自分で出してきて。こいつはこっちか! ってなりました(笑)」

――家庭を大事にするぶん仕事をおろそかにするわけではなく、どちらも大切で、どちらにもメリットがある、というのがいいですね。家庭の空気に、変化は見えてきましたか。

自分が家事や育児をちゃんとできていないときって、うしろめたい気持ちがあるから、家庭の雰囲気もつねに悪く見えちゃうんですよ。僕がこんなにダメだから怒ってるだろうなって、勝手に想像して、必要以上に悪く解釈してしまったりする。でも、自分の気持ちがすっきりといい状態だったら、妻や娘は普通にしているだけでも、僕から見たら家庭が明るく感じられるんです。

もちろん、妻とコミュニケーションをとる時間が増えていることは、間違いなくいいですね。これを続けられれば、僕だけじゃなく妻や子どももいい気分になってくれたり、家庭の雰囲気が本当によくなっていくと思っているので……そのための勝手な一歩を、いま踏み出したところです。

撮影:池田博美