- 菅原さくら
- 1987年の早生まれ。ライター、編集、雑誌『走るひと』副編集長など。人となりに焦点を当てたインタビューや対談が得意。雑誌やWebメディア、広告・採用、コピー、パンフレットなどさまざまなものを書きます。
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サカイエヒタさん/子育ては、自分と世界をつなぐきっかけを増やしてくれる【夫婦のチームワークvol.6】
シュールなTwitterが人気を博し、ジャンルを問わずさまざまなWebコンテンツを制作しつづけている編集・ライターのサカイエヒタさん。現在は9個年下の奥様と2人の娘、2匹の猫と暮らしています。子育てという新しい世界が、エヒタさんにくれた発見とは?
子どもを通じて、クライアントとの新しい関係が生まれる
――編プロやフリーランスといった働き方を経て、2016年夏にコンテンツ制作会社『ヒャクマンボルト』を設立。会社の代表として仕事をしながら、育児にもしっかり参加していると伺っています。
前回この連載に登場していた高木さんのnote「妻が切迫早産につき、夜は早く帰り、休日はどんな場所にも子連れで参戦します。」を読んだとき、ちょうどうちの奥さんも第二子を妊娠していたころだったんです。
で、「うちはこんな大変じゃなくてよかった」と思った1週間後、まさかの切迫早産で同じように絶対安静! すこし不安になったけれど、僕も働くことと子育てを重ねていくチャレンジはしてみたい、と素直に思いました。
それからは週1回だけベビーシッターを頼んで、外出はなるべくそこに集中。でも、クライアントに事情を話して、取材や打ち合わせにも連れて行っていました。
自分の家にも小さい子どもがいるパパやママはやっぱりすごく協力的で、お互いの子育て話で盛り上がったりしましたね。そのときに子ども同伴を受け入れてくれたクライアントさんとは、普段とは違う面を見せ合ったからか、また新しい密な関係ができたような気がします。「あの人も、家では子どもが騒ぐなかでメール打ってるんだろうな」って思ったりして(笑)。
そのまま出産を迎えるまでの1ヶ月半、娘とべったり一緒に過ごしました。そうなると、もう逆に仕事はスムーズにこなせちゃうんですよね。育児ほどマルチタスクに動かなきゃいけないことってなかなかないんで……クライアント(子ども)の要望も秒で変わったりするし。それに慣れちゃうと、一緒に働く相手は話せばわかるし泣きわめかないし、当たり前だけどみんな大人だなって思います(笑)。
――結婚や出産を通じて、作るコンテンツも変わってきましたか?
かわいい女の子を起用するような恋愛系やエロ系の記事は、あまり書かなくなってきました。でも、結婚して子どもを育てている目線があるからこそ、作れるものも少なくない。せっかく編集やライターをしているなら、なるべくいまの状況が活かされるコンテンツを作っていきたいなと思っています。
――ものすごく共感します……!
生活を見直して、自分のやりたいことが明確になる
――子育ては、自分自身の考えやライフスタイルをどんなふうに変えましたか?
大きいのは、食事に関する考え方。いままでは好きなものを好きなときに食べていただけで、栄養なんて全然考えたことがなかったんです。だけど、奥さんが絶対安静になっていて僕が台所に立っている以上、娘は僕が作ったものでしか成長していかない。それってすごく責任重大ですよね。
だから、栄養バランスを考えて、たくさんの野菜をやわらかく煮込んで離乳食をつくる、なんてことをまめにやっています。自分自身も子どもに合わせて、いままで省略していた朝食をきちんととるようになりました。
もともと料理は好きなほうだけど、子どもの食事作りって面白いんですよ。まず、作ったものに対してのリアクションが早い。「いっぱい食べる」「嫌がって一口も食べない」みたいな結果がすぐに出るから、こっちもすばやくリカバリーできるんです。そういうトライ・アンド・エラーを繰り返したすえに「うまい」とか言いながら食べてくれると、そりゃうれしいですよね。食べ物の産地とか、化学調味料を使わないレシピとか、細かいところにも気を遣うようになりました。
――たしかに子育ては、改めて自分の生活を見直すきっかけになりますね。でも、自由気ままな生活を手放すことでもあったりします。
子育てしていると、暇な時間ってないですよね。「暇」という概念がなくなる。でも、そんななかでもシッターさんに預けているときとか子どもが早く寝たときに、少しだけ自分の時間が生まれるタイミングがあって……その時間をどんなふうに使うかということに、意識的になれた気がします。
いまは漫画を描くのが楽しくて、夜中とか朝方まで描いちゃったり……ふとできたスキマの時間に、いそいそとペンタブを持ち出しています(Twitter @_ehita_ にて公開中)。時間がないと無駄なことをしたくなくなるから、そのぶん、自分のやりたいことが明確にわかるのかもしれません。
▲取材当時、まだ生後2ヶ月にも満たない次女。新生児特有のあまい匂いが、ふんわりと香ります
家族が増えると、自分を取り巻く“関係性”も増えていく
――奥様との関係はどうでしょうか。結婚2年目で第一子、その約1年半後に第二子を出産されて、めまぐるしく日々が過ぎていったことと思います。
もともと、うちの奥さんはすごく情緒が安定しているタイプなんです。僕はテレビを観ていて怒ったりすることもありますが、彼女は他人に必要以上の関心を持たないから、そういう怒り方をしない。お互いにまったく性格は違うけれど「こういう奥さんがいる」ということは、僕の長所だと思っています。彼女がいると気持ちがしゃきっとするし、働いたり暮らしをつくっていくなかで「よし、僕はいま奥さんを悲しませてないぞ」というのがひとつの基準になっていたりもする。……って、わざわざ言うことでもないんですけど。
――いや、完全にわざわざ言うべきことです。そんなふうに思っているのに、お二人のあいだに流れる空気は全然べたついていないのが、とっても素敵ですね。
「子どもが生まれても気持ちは恋人同士」というご夫婦もいらっしゃいますが、うちはそれは無理なんですよね。もうそういう関係性を必要としていないから、恋人は終わらせたというか。いまは酒井家にどれだけお金を入れていくかという共同運営者だと思っています。
暮らしていくうえでも、そういうチーム感はありますね。たとえば、風呂の流れ。僕が長女を先に洗っていると、そのあいだに奥さんが準備してくれた次女が入ってくる。そうしたら長女をシャワーで遊ばせつつ、次女を洗い上げて奥さんに渡し、長女をまた浴槽に戻して仕上げる……みたいな。食事の支度でも、ごはんの炊きあがりと味噌汁やおかずの完成ががっちりはまると気持ちいいじゃないですか。そういうかんじで入浴の工程が最適化できていくと、お互いに「わかってるね~」ってなります。
▲1歳4ヶ月の長女と遊ぶときは、ふくろうのパペットが大活躍。
――では最後に、あらためて子育ての楽しみを教えてください。
子どものできることって毎日増えていきますよね。その瞬間に立ち会えるのは、やっぱり面白い。こないだは、次女が泣き始めたのを見た長女が、おむつバッグを持ってくるようになって……いろんなことをぐんぐん吸収していってるなと思います。それに、子どもがいないと知らなかった世界を知れるのも楽しい。誰でも見たことのあるトーマスだけど、じつは物語にはけっこう哲学があるんだな、とか(笑)。
いまは僕ら夫婦と娘が2人、さらに2匹の猫「べこ」と「ザラメ」で暮らしています。そうすると、たくさんの“掛け合わせ”が生まれるんですよね。僕と奥さん、僕と長女、僕と次女、僕とべこ、僕とザラメ。同じように長女と母もあれば、長女と妹、長女と猫たちもある。
一人メンバーが増えると、関係性もどばっと増えるんです。実家の家族や友人にも広げて考えると、果てしなく関係性が広がってきます。
人に限らず、モノやコトもそう。たとえば僕はいままでバレエに興味を持たずに生きてきたけれど、もし娘が関心を持ったら、僕の人生にもバレエが関わりはじめるわけです。そんなふうに、これからどんなつながりが生まれてくるのか、本当にわくわくしますね。
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サカイエヒタ(酒井栄太)
1981年横浜生まれ。Webディレクター、ライターを経て、2016年に編集プロダクション『株式会社ヒャクマンボルト』を設立。編集、執筆、漫画、イラスト、給与計算などが得意。電子書籍『かぞくとわたし』KADOKAWAより発売中。
HP:http://1000000v.jp/
Twitter:https://twitter.com/_ehita_
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かぞくとわたし 妻と子どもと猫2ひき、サカイ家のやわらかな日常
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撮影:池田博美