- 菅原さくら
- 1987年の早生まれ。ライター、編集、雑誌『走るひと』副編集長など。人となりに焦点を当てたインタビューや対談が得意。雑誌やWebメディア、広告・採用、コピー、パンフレットなどさまざまなものを書きます。
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家族と一緒にいる時間が、一番楽しいと思える【夫婦のチームワークvol.3】建設機械レンタル業・瀬戸山 剛史さん
子育て中の家族が楽しく暮らすには、家事や育児を上手に分担したり、お互いの仕事を励まし合ったり……夫婦の自然な支え合いが欠かせません。本連載『夫婦のチームワーク』では、家事や育児を“自分ごと”として取り組む男性にインタビュー。妻とのパートナーシップや家事・育児に対するスタンスについて伺います。
建設機器のレンタル会社で、人事を務める瀬戸山 剛史さん(35)。音楽プロダクション勤務の奥様とは、シェアハウスで出会ったのだとか。いまは、小学校2年生の息子と1歳の娘との4人家族。日々のストレスはみんなで発散するという、瀬戸山家の暮らしをのぞいてみました。
ぶつかったときも、最後は笑顔で終わらせる
――奥様との出会いは、シェアハウスだと伺いました。
そうです。友達が住んでいるシェアハウスに遊びに行ったとき、そこに住んでいたのがいまの妻。住人同士がみんな仲良くて、大勢でよく一緒に遊ぶうちに、付き合うことになったんですよね。そうしたらそのシェアハウスにちょうど空きが出たから、僕もそこに引っ越して。彼女はアーティストのマネジメントをしていて、僕は普通のサラリーマンだったから、シェアハウスがなければ出会っていなかった世界の人だと思います。
お互いの友達を呼び合って遊んだり、思いきり仕事をしたり、楽しく5年ほど付き合って、僕が29歳のときに結婚しました。それからほどなくして、長男を妊娠。保育園に入れるかどうかは怖かったけれど、子育てはただただ楽しみにしていました。
――仲の良い友人関係から始まり、結婚をして、妊娠。子育てにもとても前向きだったんですね。
でも、産後はやっぱりぶつかり合いがありましたね。一番ケンカが起きたのは、妻が育休を終える1~2ヶ月前。彼女はもともとアクティブで仕事も好きだったから、思うように動けない妊娠中から育休のあいだ、とてもストレスがたまっていたんだと思います。その限界を迎えつつある時期に、これから仕事復帰でまた生活が変わる不安を感じている妻と、いまいちそれを感じていない僕。いま振り返れば、その温度差で、しっくりこないことが増えていました。
ある日、妻がひさしぶりに友達と飲みに行っていたので、僕が子どもと一緒に車で迎えに行ったことがあったんです。楽しそうに酔っているから、帰りに軽く「酔ってるのか~?」と聞いたら、彼女が大爆発を起こして……。お酒を飲んでいることを、僕が責めたように受け取ったのかもしれません。
いろいろな気がかりがあるうえに、それを夫婦でうまく共有できなくて不安定になっている妻に、僕が不用意な発言をしてしまったんですね。息子のときも娘のときも、復職直前のこのタイミングは小さなトラブルが増えたので、危ない時期なんだと認識しています。
妻がそうやって不安定になったり、ケンカになってしまったときは、とにかく笑わせるんです。僕の力で解決できることならすぐに行動するけれど、そういうわけでもない問題っていっぱいあるでしょう。じゃあせめて、イヤな気持ちを次の日まで持ち越さないように。どんなに難しい問題でも最後は笑って終われるように、ちょっとボケてみたり、いたずらしてみたりしています。しょうもないけど、それで笑ってくれたら、いったんはお互いに気持ちが落ち着く。プロポーズのときも、僕は「ずっと笑顔にします」って言ったみたいですし(笑)。
お互いのやりたいことを、尊重する気持ち
――実際に奥様が復職してからはどうでしょうか。
育休の最後みたいな不安定さはなくなるけれど、働き始めたらまた別のしんどさが出てきますよね。長男の育休を終えた妻は、音楽プロモーターとして復帰したため、本当に多忙でした。担当アーティストのライブがある日は、帰宅が深夜になることもザラ。僕は定時のあるサラリーマンだから、妻が仕事に追われてできない家のことは、代わりにやるようにしていました。
夜泣きの対応もよくしましたね。寝ない息子を抱っこして、夜の街を2時間くらい自転車で走ったりして。35歳になったいま、まだ同じことができるかと言うと、体力的にちょっと自信はないですが(笑)。
長男が3歳くらいのころは、妻の忙しさがピークを迎えていたような気がします。帰りが遅くて大変そうなときは、ライブ会場まで車で迎えに行ったり……そうすれば夜のドライブで、行きは息子と、帰りは妻とコミュニケーションが取れるわけです。そういうことの積み重ねで、なんとか楽しくやれていたと思います。
――自分ができないときにはしっかり夫が家のことを対応してくれるから、奥様も好きな仕事に打ち込めたんでしょうね。
でも、そのとき余裕のあるほうが家のことをやるというスタンスなだけで、僕も妻にたくさんのことをしてもらっています。僕が何かしたいなと思ったら、彼女は快くOKしてくれますよ。
たとえば東日本大震災のあと、知人が被災地で子ども向けのサッカーイベントをやろうとしていて、僕にも声をかけてくれたんですね。息子がまだ2歳くらいで、僕がいないと妻に負担がかかる時期に、定期的に家を空けることになる。でも妻は「いろんな経験にもなるだろうから、行ってきなよ」と背中を押してくれました。
会社の飲み会なども同じで、人とのつながりが大事だから行っておいでと言ってくれる。帰ってきたら「収穫あった? 得たものあった?」と聞かれるけれど、そのおかげで自分も目的意識を持って行動できるのがいいんです。
家族みんなで過ごす時間が、いちばん楽しい
――産前産後で、変わったことはありましたか?
うーん……そんなに変わらなかった気がするんですよね。もちろん子どもが生まれたらやらなきゃいけないことは増えるし、自由なんてほとんどなくなったけど、効率を考えて動くようにもなったから、あまり打撃はなかったというか。
しいて言うなら、夫婦の時間の過ごし方が変わったかもしれません。子どもたちを寝かしつけたあとは、まず家事タイム。洗濯ものや食器を、手の空いているほうがばんばん片付けていきます。お互いにあまり余裕がないときは、せーので一緒にやってしまうときも。
そういう細々した用事を片付けながらテレビを見たり、すべて終わったあとにテーブルで果物をつまみながら話したり……結婚前からずっと、そういう時間の過ごし方って僕らのなかになかったんですよね。いつも大勢で遊んだり、外に出かけたりしていたから。家で過ごす2人の時間が生まれたのは、産後の変化だなと思います。
――好きに過ごせる時間が減って不自由なはずなのに、まったくストレスを感じさせませんね。なぜでしょうか。
家族と一緒にいると、十分楽しいんですよね。もちろんストレスが溜まることもあるんだけど、以前そういうときに妻から「今日は帰ってこなくてもいいから、ゆっくり発散してきなよ」って言われて。
でも、改めてストレス発散の方法を考えたとき、みんなで一緒にいるのが一番楽しいから、家に帰らないで遊ぶことは僕にとって意味がないと思ったんです。どうしてもイライラするときは、少しだけ部屋の隅っこでぼーっとできれば十分かなと。
▲瀬戸山さんと息子が衝突したすえに開いた穴。「ポスターとかで隠したら“臭いものに蓋”になっちゃうから、自分を戒める気持ちを込めて、額縁をつけてみたんです。子どもと一緒に眺めて、ぶつかったことも含めて笑い話にしようと思って。そうしたら長男が『これは絆だね』と言ってきて……びっくりしましたね」
でも、去年娘が生まれてから、やっぱり息子は我慢することが増えたようです。だから彼のストレス発散は考えてやりたいと思っていて。ときどき息子と2人でキャンプに行ったりして、男同士で存分に遊んだりしています。もちろん、娘がいろんなところに出かけられる年頃になってきたら、みんなで行きたいですね。
うちは夫婦も含めて、子どもが4人いるようなもの。それぞれやりたいこともあるし頑固だから“お互い様”の気持ちを忘れないようにしたいと思っているんです。誰かのやりたいことをみんなでやったり、誰かがやりたいことをやるために誰かが協力したり……みんなで楽しくやることが一番大事だから、そのために工夫する。それで家族が笑顔でいられるのが一番です。
撮影:NORI