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インタビュー
菅原さくら

劔樹人さん/夫婦のベストを考えて、僕が“兼業主夫”に【夫婦のチームワーク vol.1】

子育て中の家族が楽しく暮らすには、家事や育児を上手に分担したり、お互いの仕事を励まし合ったり……夫婦の自然な支え合いが欠かせません。本連載『夫婦のチームワーク』では、家事や育児を“自分ごと”として取り組む男性にインタビュー。妻とのパートナーシップや家事・育児に対するスタンスについて伺います。

第1回は、漫画家/ベーシストの劔樹人さん。エッセイスト・犬山紙子さんと2014年8月に結婚し、2017年1月に第一子となる娘さんが誕生しました。結婚・出産を経てご自身の仕事を減らし、いまではすべての家事を担当しているとのこと。

自分のやりたいことと、いま必要なことを見極める

――バンド『神聖かまってちゃん』のマネージャーとして知名度を得て、いまでは漫画家としても活躍。ご自身のバンド『あらかじめ決められた恋人たちへ』も、さまざまなフェスに出演するなど、長く活動されていますよね。そんなふうに思いきり好きな仕事をする生活から、家庭中心の暮らしにシフトするまでには、どんな経緯があったのでしょうか。

数年前まではワーカーホリックぎみで、家にも帰らず仕事をしていました。日本全国さまざまな場所に、バンドや会社の仲間たちと車で遠征して……大変だったけれど、とても楽しくてやりがいがあったんです。だから結婚を決めたときにも、正直そういう生活への未練はありました。

でも、自分自身で取捨選択をしていくのが人生。結婚するからには、すべてを求めるわけにはいかないし、自分のやりたいことや本当に必要なことを見極めていこうと考えたんです。

家事全般を受け持つようになったのは、妻の提案がきっかけ。思いもよらないことだったけれど、夫婦の収入バランスなどを考えれば、自分のためにもやってみる価値はあると感じました。

▲2017年6月23日発売のコミックエッセイ
『今日も妻のくつ下は、片方ない。~妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました~』(双葉社)より

 

もともとひとり暮らしの時は家事なんてまったくせず、ずぼらに暮らしてきたから、最初は面倒だなと思うことばかり。主夫に関する書籍や記事を読んでいると、みんなまじで優れてるじゃないですか。効率的だし、テクニックもあるし……でも、僕はそんなすごいことはできません。

できるだけ手早く簡単に済ませたいとは思うけれど、そこまで追求したいわけではないし、目の前のことを片付けていくだけ。妻からちくちく要望を言われたりすると、過剰に落ち込んだりもしますが(笑)。でも、いやなことがあってもやるしかないのは、ある意味で仕事と同じだと思っています。

だけど、家事には対価がないし何も生み出せないから、外に働きに行っていない自分のことを一段低く感じてしまうこともある。そんなときは、妻がケアをしてくれるんですよね。「私が外で働けるのは、あなたが家のことをやってくれるから。そこに引け目を感じないで」と言ってもらえて、ずいぶん勇気づけられました。
 

――すべての家事を劔さんがやる、という下地ができたうえで迎えた妊娠・出産。とはいえ、夫婦2人の暮らしからは大きく変わるため、不安やためらいもあったと思います。

妻が30代なかばに差し掛かり、子どもについては、夫婦でときどき話し合っていました。家族が増えたら時間の使い方を考えなければいけないという話をしつつも、僕は「音楽を続けていきたい」とか「もっと稼ぎのある男になりたい」とか、さまざまな葛藤があり……もちろん子育てなんてしたことがないから、何がどうなるのかまったくわからないのも不安だった。

でも、いざ妻が妊娠したら、自分ばかりやりたいことを主張してもいられないなと思ったんです。母親は実際に出産をするわけだから、どうしても働けなくなったり、自分の生活が変わってしまう時期があるでしょう。だったら僕もわがままを言わず、僕ができることをちゃんとやらなくちゃいけないと思いました。
 

海外ドラマで乗り切った夜間授乳

まず、妻が妊娠している間に、僕は少しずつ外に出る仕事を減らしました。やれるだけのことはやったし、本当はあまり向いていないんじゃないかと思い始めていたマネージャー業を手放したのもこのころ。

「生まれたら主に在宅ワークでいきます」と周りにも伝えて、家でできる漫画と原稿の仕事を中心にしたんです。僕一人ではちゃんと準備できなかったと思うけれど、妻と話し合いながら、必要な調整を進めていった感じですね。原稿も書きためておくように妻から言われていたので、産後すぐはお互いに連載のストックがあって、育児に専念できる状態でした。

育児はだいたい50パーセントずつ、妻と分担しています。はじめは頻繁だった夜の授乳も、交代制。夜中は僕が見て、明け方に起きてくる妻とバトンタッチしていました。冷凍母乳を使っていたんですが、娘の飲む力が弱いころはスピードがめちゃくちゃ遅くて……1回の授乳に1時間とかかかるんですよね。だから、海外ドラマを大量に借りて、哺乳瓶を持ちながら『プリズン・ブレイク』とか観てました(笑)。

家事はすべて僕の担当でしたが、生まれてからは育児に時間を取られるぶん、すこし体制を見直しました。たとえば、以前ほど料理を作らなくなったので、いまは妻に出前をお願いすることも。子育て家庭向けの家事代行サービスを活用するときには、妻が料金を持ってくれるため、結果として家事の負担も分け合うかたちになったと思います。

▲自分は服を着たまま一人で娘をお風呂に入れるため、劔さんはベビーバスを浴室に持ち込むやり方を考えた。通常は新生児期しか出番のないベビーバスだが、生後6ヶ月のいまも現役稼働中なのだという。

 

“我が家のベスト”を、何度も夫婦で話し合った

――劔さんと犬山さんは、お互いに好きな仕事を続けながら家庭を運営していくための、自分たちにとってベストな仕組みを見つけたように思います。

「我が家のベストは何か?」ということは、夫婦ですごく話しました。結果、僕が仕事を減らして家事を担い、育児は分担する仕組みになったけれど、妻と夫のどっちが何をどれだけやるかは、それぞれの夫婦で理想のかたちがあると思います。だから、誰もが仕事と家事と育児をすべてやらなきゃいけないわけじゃない。バリバリ働いている父親が家のことをできなくても仕方ないし、でもそれで母親が孤立しているなら、何かを考え直さなきゃいけないと思いますね。

そもそも、家事って誰かがやらないと生きていけないでしょう。歴史的には「女の人がやって当たり前」と思われてきたことで、僕がしてると妻は「旦那さん偉いね」なんて言われるらしいけど、別にそういうもんでもない。もっと普通の、生活のなかに当たり前にあること。やったから偉いわけじゃないけれど、頑張ってる人がないがしろにされることでもないというか……みんながそこにもっと優しいまなざしを向けられたらいいのにな、とは思います。

僕らは親が近くに住んでいるわけでもなく、基本は夫婦2人きり。それでも各々好きな仕事を続けられて、さらに育児も一緒にできるというのは、とても恵まれたことだなと感じます。

――家族のベストな在り方を考えながら、初めての子育てをしてきて6ヶ月。これからがもっと楽しみですね。

そうですね、やっぱり幸せだなと感じる瞬間は増えました。ずっと「自分ならではの仕事がしたい」みたいな感覚が強くて「まだまだいける、やらなくちゃ」みたいに焦っていたけれど、いまは家事と育児を担っている現状を受け入れつつ「また時期がきたらやるぞ」と思えるようになった。

子どもを見てると、時間が経つのって本当にあっという間なんですよね。かわいい時代なんて、めちゃくちゃ短いと思う。こないだ生まれたのにもう半年が経って、気づけばどんどん大きくなっているから、僕がいろいろできるようになる“時期”もすぐに来るだろうし……そうしたら何をしようかなって、楽しみにしています。

 
撮影:NORI

劔樹人(つるぎ・みきと)

漫画家、『あらかじめ決められた恋人たちへ』ベーシスト。2009年より『神聖かまってちゃん』のマネージャーとして注目を浴びる。エンタメ業界でその名を馳せ、音楽やアイドルカルチャーにまつわるコラムなどを執筆。
ブログに描いていた家事マンガ『男の家事場』が話題を呼び、書籍化。2017年6月23日より『今日も妻のくつ下は、片方ない。~妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました~』(双葉社)として発売中。

Twitter @tsurugimikito