- 藤岡みなみ
- ふじおか・みなみ/文筆家。暮らしの中の異文化をテーマにした『パンダのうんこはいい匂い』(左右社)が発売中。
藤岡みなみ|祖父に野菜作りを教わる【思い立ったがDIY吉日】vol.67
文筆家・ラジオパーソナリティの藤岡みなみさんが、モノづくりに対してのあれこれをつづるコラム連載!題字ももちろん本人。かわいくも愉快な世界観には、思わず引き込まれちゃいます。今回はおじい様とのリモートシェア農園について!
- 藤岡みなみ
タレント、エッセイスト。タイムトラベル専門書店 utouto店主。縄文時代と四川料理が好き。やってみたがり。 - ブログ:藤岡みなみ 熊猫百貨店
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祖父に野菜作りを教わる
じいちゃんは畑の師匠です。
今年の1月、大好きな祖父が他界した。毎年お盆と年末年始には必ず会っていたけれど、ここ2年は新型コロナの影響で会う機会が減ってしまっていた。そんな中、最後まで続けていたのはそれぞれの栽培する野菜の成長報告だった。小学生の夏休み、私が遊びに行くと祖父はよく家の向かいの畑にいた。サツマイモ、キュウリ、トマト、スイカ、サクランボ、カキの木、グミの木。やってみるか?と赤く熟れた実を収穫させてくれる。そういうときはいつも私より祖父のほうが嬉しそうだった。早く自分の遊びに戻りたいなあ、と思ったりした。本格的に興味を持つ前にいつの間にか畑は整理され、砂利の敷かれた駐車場になった。畑にいる祖父の様子で覚えていることはそんなに多くない。けれど、祖父が楽しそうに野菜を育てていたことは大人になってからよく思い出す。
去年家庭菜園を始めようと思ったときに、一番に祖父に連絡をした。「初めてでも簡単な野菜ってある?」と聞くと「時期はまだ早いがきゆり、茄子などは良いと思います!! 何を植えるにもまずは堆肥をいれて土づくりからしてください」と丁寧に教えてくれた。きゆり、がかわいい。私の連絡を受けて自分でも久しぶりにやってみたくなったと言って、祖父母の家でもきゆりとナスを育てることになった。春、一足先に収穫したルッコラやハツカダイコンをクール便で送ると、あまりいい出来栄えではなかったのに感激していたのが懐かしい。本当にあのとき、想像してた5倍は喜んでくれた気がする。
頑張ってスマホで文字を打ってくれた。
しげるとリモートシェア農園
苗が大きくなってきたよ、とか、花が咲いたよ、などと報告し合う日々。東京と奈良、離れているけれど同じ野菜を育てていると想像上の畑を共有している気持ちになる。ちょくちょく「きゆりの育ちぐあいはどうですか?♡」と気にかけてくれるも、私は苗を1つ枯らしてしまった。寒さ対策が足りなかったようだ。植える時期が早すぎると時たま起こることらしく、ビニールトンネルなどで保温することが大事だという。アドバイスをもらって植え直しをした。
保温不足で枯れてしまったきゆり。
専属アドバイザー・しげるのおかげで、きゆりもナスも無事成長。奈良でも同じ時期に収穫できて、おいしいねぇと言い合った。違う苗だけど、きっとうちのと同じ味なんじゃないかなと思った。会えないとき、ビデオ電話なども距離を縮める一つの方法だが、同じ野菜を育てて食べるのもとてもいい。リモートベジタブル。
野菜を育てるというのは贅沢な体験だ。まず、時間の流れ方が変わる。進行していく病、会えないコロナ禍のもどかしさ。植物の成長は、それでも明日が来ることは希望なのだと思わせてくれる。そして、土に触れるうちだんだん原始的な喜びに目覚めていき、心を惑わす人間関係や社会の価値観から離れることもできる。たとえ歴史に名を残さなくても、土に働きかければ地球の一部になれる。そんな壮大な視点を与えてくれて、しかも食べるとおいしいのだ。効能がすごすぎる。
まっすぐ立派なきゆりが出来た!
祖父の棺桶には家族の手によってたくさんの花が入れられた。もう入りきらないほどの量。お花だらけのしげるはかわいくて、その場の悲しみにそぐわないファンシーさが少し可笑しかった。このあと火葬するわけだけど、これはもう花葬と言っていいと思った。畑、植木、花、祖父は全部好きだった。見ると祖父を思い出す植物がたくさんある。
今も、畑にいるといつも祖父のことを考える。考えていないときでも、考えている。畑にはじいちゃんがいる。去年一緒に植えたナスとキュウリを、今年も絶対植える。
ずっと一緒に畑をやろうね。