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DIY
藤岡みなみ

藤岡みなみ|今年一番の悲劇、トウモロコシの恨み【思い立ったがDIY吉日】vol.61

文筆家・ラジオパーソナリティの藤岡みなみさんが、モノづくりに対してのあれこれをつづるコラム連載!題字ももちろん本人。かわいくも愉快な世界観には、思わず引き込まれちゃいます。今回はアライグマのかかしについて!

藤岡みなみ
タレント、エッセイスト。タイムトラベル専門書店 utouto店主。縄文時代と四川料理が好き。やってみたがり。
ブログ:藤岡みなみ 熊猫百貨店
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今年一番の悲劇、トウモロコシの恨み

守り神をDIYしてみた。

今年一番の事件といえば、育てていたトウモロコシが一夜にしてなんらかの獣に食い荒らされて全滅したことだ。衝撃的だった。種から栽培してきて100日以上、素人にしては順調に育てられていた。明日あたりいよいよ食べられるかな、と思っていた矢先の被害。タイミングが良すぎて悔しい。あと1日早く収穫していれば……。やっぱり動物はいちばんおいしい時期を知っているんだと思った。20本以上あったトウモロコシは、なぎ倒され、全て雑にかじられて芯だけ転がっていた。悔しくてちょっと泣いた。

事件の現場です。思い出すだけでつらい。

調べたところ、おそらくハクビシンの仕業である可能性が高そうだった。おのれハクビシンめ。しかし虫とは違い、対動物となると家庭でできる方策は限られている。泣き寝入りするしかないのか。そんなの悔しすぎる。自分で作ったトウモロコシを毎日食べて、それでも食べきれないから友達にも送るんだろうなぁ、と、ときめいていた私の気持ちをどうしてくれる。ネットサーフィンの結果、ハクビシンの天敵はアライグマという情報を得て、ある復讐を思いついた。

決めた。アライグマのかかしを作る。以前から私の畑には頼れるガードマンが必要だと思っていた。少し前には鳥害もあった。特に、何度まきなおしてもえだまめを奪っていく鳩には手を焼いた。あのときはドームを作って覆うことで乗り切れたが、ハクビシンにはおそらくパワーがある。何かを被せたり囲ったりするだけではかわいい野菜たちを守りきれないのではないか。もっとハクビシンを気持ちごとなえさせるというか、ナメられない手段が必要だ。近づいたらまずい、と本能でわかるような強い畑を作りたい。その象徴として、アライグマのかかしが必要だ。

アライグマを思い出しながらパーツを描く。

もう着ない茶色い服と、フェルトと綿を準備する。ミシンも久しぶりに出してきた。やってやる。一応「かかし作り方」で検索してみたものの、今回のケースにおいてめぼしい情報は見当たらなかった。仕方ない、フリースタイルで臨むしかない。

茶色い布に下描きをしてパーツごとに切る。今回は古着なので、布が重なった状態でカットしやすいのがよかった。それぞれミシンで袋状に縫って、裏返す。適当に縫ってもひっくり返すとわりといい感じに見えるのが、縫製のズボラマジックだよなあと思う。ハクビシンへの闘志を燃やしながらギュムギュムと綿を詰めていく。手縫いで体をつなぎ合わせて、フェルトで顔やしっぽの縞模様を作って。完成!……ん?なんか違う。

命吹き込み中。一番神秘的なところ。

立ち入り禁止を表すための長い手。警告模様の大きなしっぽ。何も間違っていない。でもなんか違う。妙に愛着が湧き、畑に立たせるというよりは隣で一緒に眠ってほしい感じになった。まあ、トウモロコシもう植えてないしいいか……。みるみる消えていく復讐心。アライグマの人形には、見たものの戦意を喪失させる力があった。

思てたんとちがう。

何しようと思ったんか忘れた、みたいな状態になったけれど、それでもやっぱりDIYはいいなと思う。役に立つか立たないかじゃない。何かを作る、そのこと自体が尊い。多分私はハクビシンの天敵はアライグマ、という情報を一生忘れないだろう。それは情報が単なる知識ではなく、DIYによって実体験として脳に埋め込まれたからだ。ミシンを動かしながら、綿を詰め込みながら、没頭していた時間が気持ちよかった。ハクビシンへの怒りも消えた。お坊さんが「心が乱れたときはトイレ掃除に没頭する」って言っていたっけ。何かが根本的に解決したわけじゃない。でもアライグマのかかしを作るという行為によって、私の魂が確かに慰められていくのを感じたのだった。