- 菅原さくら
- 1987年の早生まれ。ライター、編集、雑誌『走るひと』副編集長など。人となりに焦点を当てたインタビューや対談が得意。雑誌やWebメディア、広告・採用、コピー、パンフレットなどさまざまなものを書きます。
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「作るのも使い込むのも楽しい。壊れたら、新しく作り直すのも楽しい」――うしろシティ・阿諏訪泰義、“レザークラフト”を語る
プロ顔負けの料理に一人キャンプ、DIY……黙々と手を動かすのが好きな、職人肌の阿諏訪(あすわ)さん。今回は、近ごろハマりにハマっているレザークラフトについてインタビュー。キャンプ道具から財布にキーケース、スパイスケースなどもすべて自作しているほど、のめりこんでしまう魅力とはいったい?
睡眠時間を削って作り出す、趣味のひととき
――前回はキャンプについて語っていただきましたが、今回はもうひとつの趣味・レザークラフトについて聞かせてください。
レザークラフトで最初に作ったのは、キャンプで使う斧のシース(カバー)です。付属のケースがどうにもちゃっちくて、付け替えたいのに、ちょうどいいサイズの既製品がない。じゃあ自分で作れないかなと思って、YouTubeでレザークラフトの動画を観てみたのがきっかけでした。
そうしたら、案外簡単そうで……試しに安い革の端切れで作ってみたら、サクッとできちゃったんです。もともと手を動かすのは好きだから、楽しくて! ほら、作業に没頭していれば、その日どんなにスベってたとしても、いったんはそのことを忘れられるじゃないですか(笑)。
それからはもう、どんどんのめりこんでいきましたね。作るのはキャンプグッズが多いです。市販のキャンプ用品は、携帯性を重視してなるべく軽くしてあるから、あんまりデザインがよくなかったりするんですよ。だから、ほしいものはもう、レザークラフトで自作。
革製品は使い込めば使い込むほど味が出るから、愛着も湧いて、キャンプがより楽しくなるんです。忙しくても、寝る時間を削って手を動かしてますね。
▲長財布にキーケース、キャンプ用のポーチ。日常生活のさまざまな場面で、自作のアイテムが活躍している。
日常のなかで「あ、これ俺が作ったんだ」と思い出す喜び
――寝る間も惜しんでやってしまうほどの、レザークラフトの魅力って何なんでしょう。
やっぱり、自分好みのものが作れるところですかね……料理と違って、物が手元に残るのもいい。たとえばこの財布も作ったんですけど、毎日普通に使っていて、買い物するときなんかにふと見るでしょ。それで「あ、これ俺が作ったんだった」って思い出すだけで、うれしいんです。
誰かにプレゼントして、喜んでもらえるのもいいですね。IQOS(アイコス)が登場したてのときにケースを自作したら、いろんな人に「俺にも作って」と言われて、受注販売みたいになってました。最初に5,000円渡されて頼まれると、前払いでお金を受け取っちゃってるから、もう断れない(笑)。そのころは、コツコツと何個もIQOSケースを作ってました。
あと、改良を加えていけるのも自作ならではの喜びですね。最初に作った財布はチャックが短くて使いにくかったから、2代目のこれはチャックをコの字に伸ばして、ぐっと開きを大きくしました。使った革は「コードバン」という馬のおしりの部分で、通称“革のダイヤモンド”。よい革だけに、風合いが少しずつ変わっていくのも楽しみにしています。
▲財布を手に取り、チャックの改良点を熱く語る阿諏訪さん。
知識が増えてくると、素材選びもどんどん面白くなるんです。「牛でこの厚みだとキーケースに向いてるな」「この色をポーチに使いたいから、薄い端切れを何枚も組み合わせよう」とか、具体的に想像がふくらみはじめる。そうすると、次は何を作ろうかってワクワクがとまらないんですよ。
――作るもののアイディアは、どのように生まれることが多いですか?
日常生活でしっくりきていないアイテムから「こういうものがほしいな」「どうやって作ろうか」って考えることが多いです。紙になんとなく完成図を描いてみたり、ストックしてある端切れをいろいろ眺めてみたり……。ふと「車のサイドブレーキにレザーを巻いたら、かっこいいんじゃないか?」と思って、夜中にいそいそブレーキを測りに行ったこともあります(笑)。
やっぱり、自分の手でゼロからものを生み出すのって面白いですよね。風呂上がりにお酒を用意して、作業台に座って、手を動かしてるときが、本当に幸せです。
▲自宅の作業スペースは、工具でいっぱい。趣味の域を超えつつある品揃えだ。
YouTubeと100均の工具で、初心者も簡単に始められる
――作るものを想像するとき、実際に手を動かしているとき、できあがったものを使い込むとき……レザークラフトって、ずっと楽しいですね。
そうですね。なんなら、作ったものが壊れても楽しいんですよ、新しく作り直せるから(笑)。
それに、革を染める楽しみなんかも出てきちゃいます。最初は難しそうだなって思うけど、動画を観てみたら「……できそうだな?」と(笑)。染料買って、綿棒に巻いたコットンにつけて、革をとんとん叩いて染めていく。意外と思い通りに仕上がったりするから、やめられません。YouTubeにはプロ級の動画がいっぱいあるから、なにか気になったらすぐに調べられるし、やり方もわかりやすくて、本当にお世話になってます。
――初心者が作るのに、チャレンジしやすいアイテムはありますか?
レザークラフトは基本的に、切った革のパーツを糸で縫ったり、金具で接着しながら、かたちを作っていきます。だからまずは、パーツや装飾の少ないものがおすすめ。キーケースなどは1~2枚の革をシンプルにくっつけるだけでも充分それらしくなるため、手軽にチャレンジできると思います。
オーソドックスに見えるけれど、手間がかかるのはステッチ。縫うための穴をあけたり、糸や針を揃えなくちゃいけないから、地味にハードルが高いかもしれません。
▲2枚の革に穴をあけ、糸で縫い合わせていく作業中。
最初は、打ち込むだけで革を接着できる「カシメ」という金具が便利です。100均で売ってるような木づちとカシメさえあればOK。少ない手間と少ない工具でできるものから、気軽に始めてみるのがいいですね。
でも、ハマってしまうともう果てしない。我が家にはすでに60種類くらい工具があるけれど、まだ月に1本くらいずつ買い足しています。最初はすべて似たような商品に見えて、1本500円なんて高いと思っていたのに、だんだん「あ、これはこういうときに使うんだ……」「なるほど、これは要るな~!」ってなっちゃって(笑)。やればやるほど知りたくなるし、突き詰めたくなるのは、レザークラフトもキャンプも料理も一緒かもしれませんね。
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阿諏訪泰義(うしろシティ)
1983年、神奈川県生まれ。2009年にコンビ結成。「ウチのガヤがすみません」(日本テレビ)、「あのニュースで得する人損する人」(日本テレビ)準レギュラー、「うしろシティ星のギガボディ」(TBSラジオ)などにレギュラー出演中。松竹芸能所属。
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撮影:池田博美