- 菅原さくら
- 1987年の早生まれ。ライター、編集、雑誌『走るひと』副編集長など。人となりに焦点を当てたインタビューや対談が得意。雑誌やWebメディア、広告・採用、コピー、パンフレットなどさまざまなものを書きます。
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「寒くて不便、くつろぐためにはスキルも要る。だから何度も行きたくなる」―うしろシティ・阿諏訪泰義、男の“キャンプ”を語る
人気バラエティ番組で、プロ級の料理の腕前を披露している阿諏訪(あすわ)さん。でも、プライベートではほかにもさまざまな趣味を持っています。とりわけ熱くハマっていることのひとつが、“キャンプ”。しかも、主に一人で行くことが多いのだそう! 一人キャンプの醍醐味や、シーズンインしたばかりの冬キャンプについて聞きました。
人間界を離れるため、野ざらしのキャンプ場へ……!
――まず、阿諏訪さんはなんでキャンプにハマったんですか?
23歳くらいの夏、友達と公園でBBQをしていたんです。火を囲んで汗だくになりながらビールを飲んで「あ、外でお酒飲むのってこんなに楽しいんだ」ってなったのが、そもそものきっかけ。もっと長く外にいたいと思って、次はみんなでキャンプに出かけるようになりました。
で、9月になり、10月になり、夏が終わってみんながキャンプしなくなってからも、僕はまだしたい。「あ、みんな行かないんなら一人で行ってみるか」って、奥多摩に出かけました。いまでこそ「紅葉キャンプ」みたいなものもメジャーだけれど、当時はまだキャンプといえば夏の遊びだったから、10月の平日なんてがらっがらに空いてました。それがまた快適で!
――そこで、一人キャンプに味を占めたわけですね。
でも、一人でがらがらのキャンプ場にいると、次は街灯や自動販売機、きれいに整備された炊事場、トイレなどに違和感をおぼえてくるんです。「これは果たして自然のなかなのか? いや、設備が整っていないだけでまだ人間界のうちだな……」って。それでもっと何もないところに行きたいと思い始めたのが、27〜28歳くらいのころでした。
いまはキャンプが流行っているから、おしゃれなグランピングスペースとか、Wi-Fiや電源まである高規格のキャンプ場がいっぱいあるでしょ。でも僕が行きたいのは真逆で、低規格のキャンプ場なんです。整備も行き届いていない、野ざらしみたいなところが最高(笑)。公式サイトとかもないから、電話帳とかから発掘するわけですよ。
で、いそいそ出かけてピンポン鳴らして、「ちゃんとキレイにして帰るから、一泊だけしてもいいですか?」って頼んでね。仲良くなったら、次は東京からお土産持って行くわけです。
前はレンタカーで行ってたけど、せっかく休みなのに車が確保できないときもあったから、3年前に中古でジムニー(スズキの軽四輪駆動車)を買いました。ほぼ、キャンプに行くための買い物です。
一人で行くキャンプは“究極の引きこもり”
▲昔は値の張るアウターなどを着込んでいたが、たき火で穴があいてしまうため、最近はもっぱらUNIQLO。充分に暖かい。
――人間界を離れて一人でするキャンプ、醍醐味は何なんでしょうか。
一人で行くキャンプって“究極の引きこもり”なんですよ。家に一人でいても、街の音とかで人の動きを感じるじゃないですか。でも、山奥に行ってしまえば、周りは鳥の鳴き声や草が揺れる音だけ。人の気配がまったくないんです。普段いちばんストレスになりやすい対人関係が、山ではゼロになる。お酒を飲んでも、寝ても、何やってもいいし、1mmも気を遣わなくていいわけです。まぁ、遠くから「ガサガサ!」とかって得体の知れない音が聞こえてくることはあるけど、それもある意味楽しいし(笑)。
出発する前夜はまず、家のベッドで「明日は山奥で寝るのかぁ~」という最初のワクワクを感じます。現場に着いて、自然を感じながらまたワクワク。周りを見て「ここは寝るところ、ここでくつろいで、川の近くでごはん食べて……」とか考えながら、もう“秘密基地”を作るような感覚ですよね。そのあとも火が無事におこせたら、達成感。ごはんやお酒がおいしくて楽しい。星がキレイでうれしい。そんなふうにずっとテンションが上がってるから、キャンプが終わるとぐったり疲れます(笑)。
――でも、寒い時期のキャンプはつらそうです……。
いやいや! 冬の雪中キャンプなんて、寒さが逆に楽しいですよ。たき火が最高に気持ちいいし、雪のおかげでいつもよりさらに静かになって、ひとりぼっちを満喫できます。風は冷たいけれど、ハンモックにダウン、タープで完全防備すれば案外平気。ランタンの小さな灯りだけで、周りがぱっと明るくなって……空気が澄んでいるから、星もめちゃくちゃキレイです。
昔、マイナス14℃の湖畔で、友達とキャンプをしたことがあるんですよね。テントで寝てたけれど、寒くて何回も目が覚めて。2リットルのペットボトルが全部凍ってて、アイスボックスに入れてあった飲み物だけが唯一凍ってない、という異常事態でした。さすがに僕らも凍えて、もうこりごりだってなったけれど……数ヶ月後には、来年のリベンジを誓ってました(笑)。
キャンプで快適に過ごすためには、スキルが要るんですよね。不便な場所でくつろげたもん勝ち。だから、真冬の湖畔でも快適に過ごせなかった、自分たちのレベルの低さが悔しかったんです。そういうチャレンジ感は、もしかしたら山登りとかにも通じるものがあるのかもしれません。
▲もちろん、設営も全部一人でやらなければならない。「慣れてきたら簡単」と、さくさくハンモックを張る。
▲テントは地面の温度で体が冷えてしまうため、睡眠はハンモックで。「吹きさらしになるけど、それでもこっちのほうがあったかいんです」と阿諏訪さん。ハンモックを椅子代わりに、料理をしたりも。
好みのキャンプスタイルによって、場所やアイテムを選ぶ
――お話を伺っているうちに、どんどん興味がわいてきました。とくに、硬派な男の趣味にはぴったりな気がします! 初心者でもおすすめのキャンプ場などはありますか?
山梨県にある道志村(どうしむら)は“キャンプ場の原宿”と呼ばれています。山道沿いにたくさんのキャンプ場があって、高規格・低規格・林・森・川沿いなどとジャンルもさまざま。歩き回りながら、自分好みのフィールドを見つけるのがおすすめです。キャンパーもたくさんいるから、困ったときは周りに頼ることもできると思います。
それで、僕みたいに人間界を出たいとか、一人キャンプをしてみたいと思ったら、もっと山奥へ。自分にとってどんな場所が快適なのかは、やっぱり実際に数をこなさなきゃ見えてこないんですよね。アイテムもそうで、自分に合うものは、いろいろ試して見つけるしかありません。
▲真鍮製のランタンに、簡単な調理をするためのミニフライパン、小鍋、木皿。奥に見えるスパイスケースやポーチは、レザークラフトで自作したという。
――なるほど。アイテムは、たとえばどんな基準で選んでいくものなんでしょうか。
キャンプにも、いろんなスタイルがあるんです。ファミリーキャンプ、ツーリングキャンプ、グランピング、登山……一人で行くキャンプも「ソロキャンプ」と呼ばれています。
僕はソロキャンパーでもあるけれど、基本のスタイルは「ブッシュクラフトキャンプ」。なるべく現地の枝や石などを使って、くつろげる空間を工作するのを理想としています。だから、そこまでの重装備は要らない。どんなキャンプを楽しみたいかによって、必要なアイテムが変わってくるんですよね。
ところが困ったことに、「俺はこのスタイルで行く」と決めてどばっと道具を揃えたとしても、その気持ちが1年後には変わっちゃう(笑)。アイテムだって最初は軽量化を追求していたのに、「やっぱり多少重くてもこだわりの物を持って行こう」と思い始めたり「いや、何も持たずに不便を楽しむのがいいのかも」って考えたり……。何度も足を運ぶうちに、キャンプに対する価値観が少しずつ変わってくるわけです。
――まったく困ったことに、キャンプは奥が深いということですね。
そうなんです。でも僕は、だからこそキャンプが好きだと感じています。
もともと飽き性で凝り性だから、わかりやすいものはすぐに熱が冷めちゃう。だけどキャンプはしょっちゅう行けるわけでもないから、まずは「行きたい行きたい……やっと行けた!」っていうループを長く楽しめます。そして、回数を重ねるうちに嗜好が変わってきて、アイテムと内容が変わる。いつも、新しい楽しみ方を知ることができるんです。
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阿諏訪泰義(うしろシティ)
1983年、神奈川県生まれ。2009年にコンビ結成。「ウチのガヤがすみません」(日本テレビ)、「あのニュースで得する人損する人」(日本テレビ)準レギュラー、「うしろシティ星のギガボディ」(TBSラジオ)などにレギュラー出演中。松竹芸能所属。
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撮影:池田博美