- 藤岡みなみ
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藤岡みなみ|野菜たちと協力して、季節を乗り越える【思い立ったがDIY吉日】vol.79
文筆家・ラジオパーソナリティの藤岡みなみさんが、モノづくりに対してのあれこれをつづるコラム連載!題字ももちろん本人。かわいくも愉快な世界観には、思わず引き込まれちゃいます。今回は、家庭菜園について!
- 藤岡みなみ
文筆家、タイムトラベル専門書店utouto店主。縄文時代と四川料理が好き。やってみたがり。 - オフィシャルサイト
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野菜たちと協力して、季節を乗り越える
▲今年はロメインレタス栽培からスタート。
春から初夏は家庭菜園にとって一番ドラマチックな季節だと思う。
始まりの春。今年は何を植えよう、もしかして食べきれないくらい収穫できちゃったらどうしよう、と夢が膨らむ。
かと思えばまだちょっと肌寒くて、早めに植えたキュウリの苗を枯らしてしまったこともある。早朝や夕刻、心細そうにひとりで凍える苗を見て胸が痛んだ。
▲キュウリの苗、早く植えすぎると寒そう。
保温キャップをつけたり、ビニールで包んでみたり、何もできないのに何度も様子を見に行ったり。
あれこれ心配しているうちに気付けば成長しているというのは、子どもや子猫と同じかもしれない。春の畑は保育園。赤ん坊たちが震えながら、おそるおそる土から顔を出していた。
▲種から目覚めたばかりの芽の赤ちゃんたち。
朝夕の冷えが去ったら、苗たちは別人のようにシャッキリとしはじめる。気付いたら小学生になっていた親戚の子ぐらい展開が早い。
そこまで過保護に守ってやらなくても大丈夫そう。むしろ、自立を促してやりたい気もする。
間引きや芽かきなど、こちらが勇敢に決断すべきときはして、あとは本人が伸びたい方向に伸びてもらいたい。
誘引なんて言うけれど、誘われているのも導かれているのもいつだってこちらのほうだ。
夏に向かって上がっていく気温をめきめき力に変えて、強くたくましく青々と育っていく。
そんな彼らに訪れる夏の前の試練といえばやっぱり梅雨だろう。
梅雨。人生で30回以上経験してきたが、正直まだ慣れない。雨音を楽しむ余裕のあるときはいいが、いまだにしっかり気がめいる日もある。
家庭菜園を始めてからは、さらに梅雨という季節のつかみどころのなさに頭を悩ませるようになった。一体いつ終わるのか。
あっさり終わる年もあれば、長々と7月下旬まで雨が降りやまない年もある。今年はどういうつもりなんだ。ジャガイモはいつ収穫させてもらえるのか。
土の中がじっとりした状態で掘り起こすとイモが傷んでしまいそう。収穫したら1日か2日外で乾燥させたいから、収穫の日だけ晴れていても仕方がない。
ジャガイモを育てる人々は、いつも梅雨明けのタイミングにやきもきせざるを得ない。天よ、土よ、ジャガイモよ、どうすればいいか教えておくれ。
自分の力ではどうすることもできない大きなものと対峙するような感覚がある。雨乞いや晴れ乞いをしていた時代の人々の気持ちがわかる。もう祈るしかない。
▲ジャガイモをいつ収穫するのか問題。
それでも、明けてしまえば悩みも梅雨とともにどこかに飛んでいく。待っているのは心躍る収穫の日々。
はらはらしたり、迷ったり祈ったりしたぶん、割り増しでおいしく感じられる。予想外の動きをしたトマトも、想像以上の伸びしろを見せつけてきたオクラもみんなかわいい。
春も梅雨も初夏も、乗り越えがいがあるエキサイティングな季節だ。
待ち望んだ、 5月の苗フェスティバル!
▲今始めれば、豊かな夏が待っている!
これを書いている今は3月下旬。
今年も夏野菜を植えるぞ、と意気揚々とホームセンターに行ったら、まだ時期が早すぎてレタスとかエンドウしか売っていなかった。
そうだ、私が住んでいる中間地では、人気の苗たちが出そろうのはゴールデンウィーク頃だった。栽培を始めてから、自分の中でのゴールデンウィークのイメージが変わった。
あれはゴールデン・苗・ウィークだったのだ。
5月に園芸コーナーに行くのは楽しすぎるから要注意。一緒に行った家族や友人に「ちょっと時間かかるから、しばらく放っておいてね」とひとこと言っておいたほうがいいかもしれない。
そして今年、私には野望がある。1年ほど前に山梨に引っ越してきたので、せっかくならブドウを育ててみたいのだ。
ブドウは木だが、調べてみると鉢植えでも収穫できるものがあるらしい。家でブドウ狩り、夢がある。
ここでもまた、きっと思いもよらないドラマが繰り広げられるのだろう。