- 津久井 玲子
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意外と知らない?『秋茄子は嫁に食わすな』の意味と由来
『秋茄子は嫁に食わすな』とは有名なことわざですが、あまりよい印象を持つ方は少ないのではないでしょうか?そこで今回はこの有名なことわざについて、意味や由来を調べてみました。意外な事実とともにご紹介します。
『秋茄子は嫁に食わすな』の意味
『秋茄子は嫁に食わすな』の意味で一般的に広く知られているものは、少なからず悪い印象を与えるものでしょう。
妻として嫁いだ先で、夫の母親にあたる姑(しゅうとめ)が、「秋茄子のように美味しいものを、嫁の分際で食べるなんてとんでもない」と嫁いできた妻を嫌って差別する、早い話が嫁いびりであるいじめを意味することわざです。
しかし、実はこの『秋茄子は嫁に食わすな』ということわざには、まだほかの意味があるということをご存じでしょうか?それは、先ほどご紹介した意味とは真逆で、姑が嫁をいたわり大切にするというものなのです。
ではどのような意味かというと、夏野菜である茄子には体を冷やす作用があるため、「せっかく嫁いできた大切な嫁の体調を守るために、食べさせてはいけない」というもの。特に妊娠している場合にはよくないからというのです。
また、秋茄子には種が少ないことから、「秋茄子を食べるとせっかく嫁いできた嫁が、秋茄子のように子種が無くなり、子宝に恵まれなくなって大変だ」という縁起かつぎの意味もあります。
特にこのことわざが生まれたとされる時代は、「嫁は世継ぎを生むことが一番大切な役目」とされた封建制度の時代とされ、嫁が子宝に恵まれないと大変なことになる時代だったのです。
『秋茄子は嫁に食わすな』ということわざは、ここまで真逆な意味を持つことから、「よくわからないことわざ」といえるかもしれません。しかし、このことわざにはまだ意味があり、その意味には嫁も姑も関係ないというのです。
ではどのような意味かというと、「せっかくの美味しい秋茄子を、ネズミに取られて食われないように注意しなさい」というもの。
ではなぜ急にこのような意味が出てきたかというと、「嫁」は元となった由来では「夜目(よめ)」と書き、この「夜目」とはネズミを指す言葉だからというのです。
『秋茄子は嫁に食わすな』ということわざにはこれだけの意味があります。そのため、このことわざは単体では使いづらく、「前後の文から正しい意味を推察する必要があることわざ」ということになるのです。
なぜ茄子なの?
このことわざの一番の謎の1つは、なぜ食べさせてはいけない食べ物が茄子なのか?と思う方もいるかもしれません。
茄子は皆さんのイメージだと夏野菜という方が多いことでしょう。しかし茄子は、秋もまだ収穫できる野菜です。この時期の茄子は、種が少なくなって実も引き締まることから、多くの方が食味がよくなり美味しいと感じるといいます。
「だから茄子なのか」というと、実は『秋茄子は嫁に食わすな』ということわざ以外でも、嫁いびりの意味に使われることわざの中には、他の食べ物を使ったそっくりなことわざがいくつもあるのです。
使われている食べ物は、「秋カマス」「秋サバ」「五月蕨(ごがつわらび)」など、その時期に美味しいとされる食べ物ばかりといいます。このことからも『秋茄子は嫁に食わすな』ということわざは、嫁の立場が弱い封建的な社会の中で生まれたのかもしれません。
『秋茄子は嫁に食わすな』の由来
『秋茄子は嫁に食わすな』の意味はいくつもありますが、実際にどの時代にできたことわざかというと、詳しいことはわからないというのが実情です。そのため由来もはっきりとはしていません。
『秋茄子は嫁に食わすな』は嫁いびりのことわざとして生まれ、「嫁を思いやっているんだ」という言い訳を由来として気遣う意味が生まれたのではないか、と推察する意見もあります。
そんな中、1つだけ由来とされるものが分かっているとされる意味が1つ。それが、「秋茄子をネズミに取られないよう注意しろ」というあの意味の由来です。
なぜ「嫁」は「夜目」が転じたものが由来といわれ始めたのかというと、鎌倉時代の『夫木和歌抄(ふぼくわかしょう)』という和歌集に収められた一首の和歌にたどりつきます。
秋なすび わささの粕につきまぜて よめにはくれじ 棚におくとも
この和歌を紐解いていくと、「わささ」は「新酒」のことを指す古語で、「よめ」は先にもご紹介したように「ネズミ」のことです。
つまり、「秋茄子を酒粕に漬け込んで、美味しくなるまで棚の上に置いておくのはいいものの、うっかりネズミに取られないように気をつけろ」という意味になります。そして、この和歌が由来となって、今の形になったという説があるのです。
しかし、この由来が『秋茄子は嫁に食わすな』ということわざを生んだとする説は、一般的見解としては疑問視されています。理由はいくつかありますが、由来の根拠の1つである「よめ」が、ネズミから嫁に転じるのに無理があると考えられるからです。
「夜目」は元々が特定の相手に伝わればよいという隠語であり、さらに「嫁」に転じたとされる由来の元となった「嫁が君(ネズミのこと)」も、一般的に正月の三賀日限定で使われていた、縁起をかついで代わりに使う忌み詞(いみことば)だといいます。
また、『秋茄子は嫁に食わすな』ということわざの由来をこの和歌とするには、同じ意味で食べ物だけ違うことわざが多数あることからも、根拠が薄いとされているようです。
『秋茄子は嫁に食わすな』は英語でもほとんど同じ?
『秋茄子は嫁に食わすな』ということわざは英語にはありません。それでも英訳した場合には、意味も理由もほとんど同じ言い回しになるのです。つまり、『秋茄子は嫁に食わすな』を英訳すると、
Don’t feed autumn eggplant to your wife.
となります。「feed」は「与えない」、「eggplant」は「茄子」なので、『秋茄子は君の嫁に与えるな』となるわけです。さらに理由もちゃんと3つあり、
Because they’re too delicious, because they’ll give her chills, or because their lack of seeds will reduce fertility.
「too delicious」は「とっても美味しい」、「give her chills」は「体が冷えてしまう」、「reduce her fertility」は「嫁の持つ子供を妊娠する能力を減らす」となり、日本でのことわざとほとんど同じ意味になっています。
もっとも、嫁いびりの言葉として使う場合に厳密に直訳すると、
Don’t feed delicious food to daughter-in-law.
となります。「daughter-in-law」は「義理の娘」を表し、つまり「嫁」を表現しているわけです。『秋茄子は嫁に食わすな』の悪い意味しか表現できませんが、覚えておくとよいかもしれません。
『秋茄子は嫁に食わすな』の使い方
『秋茄子は嫁に食わすな』は、使い方次第で意味が大きく変わってしまいます。どんな文章を前後に合わせるかを、間違えないように使いたいものです。
悪い意味で使う場合、あえてこのことわざを使うことで、会話の中でやんわりと暗喩することができます。また、あまり聞こえはよく感じないかもしれませんが、例えとしてこのことわざを出すことで、秋茄子の美味しさを表現するのに使える場合もあるでしょう。
また、よい意味で用いれば、秋茄子の効果をより印象強く伝えることもできます。特に妊娠中の女性にとって、体を冷やすのは悪いことです。このことわざを上手に使って、秋茄子のデメリットを伝えてみてはいかがでしょうか?
おわりに
『秋茄子は嫁に食わすな』ということわざは、そのまま文面通りに取れば冷たいことわざです。しかし、由来ははっきりしないものの、その意味の中にはよいものもあり、上手に使いこなしたいことわざでもあります。
多用は控えたいですが、秋茄子の季節になったら意識してみるのもよいかもしれませんね。