- 石原たきび
- ライター。たき火。俳句。酒。
編著に『酔って記憶をなくします』(新潮文庫)。
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“盆栽女子”増加中!ゆるふわ系アイドルもハマるのか検証してみた【前編】
“おじいちゃんの趣味”というイメージが強かった盆栽。しかし、90年代以降はアートとして注目され始め、“盆栽女子”も増加している。その魅力は普遍的なものなのか。ゆるふわ系のアイドル・葵井えりかちゃんを実験台にして検証した。
白羽の矢を立てたのは「2017ミスヤングチャンピオン」ファイナリストのアイドル・葵井えりかちゃん(25歳)。
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葵井(あおい)えりか
1992年2月5日生まれ T166cm 血液型0型
SUPER GT 2017 GT300のレースクイーン。第8回ミスヤングチャンピオンファイナリスト。サンテレビ『ぷるるん!トラベラー』準レギュラー。
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趣味は「ダーツ」と「晴れた日のお散歩」で、おっとりタイプ。もちろん盆栽の「ぼ」の字も知らない。
そんな彼女を小旅行に連れ出した。詳細は一切告げていない。予習されると困るからだ。
▲「わー、盆栽の街なんですねぇ」
▲ファンに向けてツイート
JR宇都宮線土呂駅で下車して、向かったのはさいたま市大宮盆栽美術館。世界初の公立の盆栽専門美術館で、盆栽のすべてがわかるといっても過言ではない施設だ。
ここでえりかちゃんが奥深き盆栽の世界に感動したら、その魅力は普遍的ということになる。
▲「漢字? 書けますよ。私、漢検一級を持ってるんです」
駅から徒歩5分、さいたま市大宮盆栽美術館の入り口に到着した。
目次
おじいちゃんちの盆栽は、もうちょっとかわいい方がいいなぁと思った
▲緊張気味に門をくぐる
出迎えてくれたのは同館主事の橋本浩明さん(29歳)。自身でも盆栽を育てている盆栽愛好家だ。
▲「よろしくお願いします〜」
ーー今までに盆栽を見たことは?(橋本さん、以下同)
「あ、おじいちゃんちにありました。もうちょっとかわいい方がいいなあと思った記憶が……」
2016年の来館者数は約7万5000人で、年々増えている
▲さっそく、講義が始まる
ーー2016年の来館者数は約7万5000人で、年々増えていることからも盆栽ブームは高まっているといえます。とはいえ、まだまだ若い方は少ないので葵井さんみたいな人がPR大使になってくれるとうれしいですね。
「わかりました! 今日はしっかりと勉強します」
▲まずは、歴史を学ぶ
ーー昭和初期に盆栽業者が東京から集団で移住したことから、この付近は「大宮盆栽村」と呼ばれています。現在、盆栽園は6園ですが、もっとも多いときには約35園もあったそうです。
「ああ、だからここに盆栽美術館を作ったのかぁ」
▲昭和10年ごろの“大宮盆栽村”マップ
ーーその後、昭和39年の東京オリンピックと昭和45年の大阪万博で大規模な盆栽展が開催されました。これを機に日本の伝統文化として海外にも広まっていったんです。
「なるほど、外国の人がたくさん知ってくれたんですね」
盆栽は鉢や卓(しょく)を含めたアートなんです
ーーでは、実際に盆栽を見てみましょうか。
「はい!」
▲座敷飾りのコーナー
ーーこれは、左から「行(ぎょう)」「草(そう)」「真(しん)」という格式が異なる3種類の座敷に盆栽を合わせたものです。一番格式が高い座敷はどれかわかりますか?
「うーん……座敷の格式はわからないけど、『草』の盆栽は下にくねくね伸びていて、なんかかわいい」
▲草を「メイク部屋にしたい」という大胆発言が飛び出した
ーー正解は、格式が高い順に「真」「行」「草」です。「真」には大きくて威厳のある盆栽を配します。
「『草』の盆栽はくねくねした枝と台が似てますけど、わざとですか?」
ーーさすが、おっしゃる通り。この台を盆栽用語では、「卓(しょく)」と言うんですが、盆栽は鉢や卓を含めたアートで、飾り方も重要なんです。
「なるほどです。あとあの……ここちょっと寒いです。もしかして、これもわざとですか?」
ーーはい。外気に近い温度になるように、盆栽に合わせた温度管理をしているんです。我々は「盆栽ファースト」と呼んでいます(笑)。ちなみに、盆栽とつながりの深い芸術として、こういったものもあります。
▲「えっと、石ですよね……」
ーー「盆石」「水石」などと呼ばれるもので、観賞用の石です。この小さな空間の中に、山水の情景や石の文様を鑑賞する文化で、愛好家もたくさんいるんですよ。
「ちょっと、これはついていけません……」
盆栽は大自然を小さな空間で表す
ーー確かに、上級者向けかもしれませんね。では、いよいよ外に出ます。その前に2階のテラスから全景が一望できるので、ぜひ。
▲屋外の盆栽たちを指差す橋本さん
▲全館で約60鉢の盆栽を展示している
「わあ、すごい。池には魚がいるんですか?」
ーーい、いませんね。生き物は管理が大変なので。では、近くで見てみましょう。
▲室内の展示とはまた違った趣き
「この大きさは、もはや盆栽のイメージを超えていますね」
ーーこれは「真柏(しんぱく)」というヒノキの仲間で、山の高いところや崖などでも育つ強い木です。雪の重みや強風で幹がねじれるんです。
「よく見ると、うねりがかっこいい」
ーー白い部分は枯れています。盆栽は大自然を小さな空間で表すアートなので、わざと残して自然の厳しさやその中で生きる樹の力強さを表しているんですよ。
▲枯れてもなお朽ちない幹
「そういう説明を聞くと、健気にがんばっている感じがします」
盆栽鑑賞の基本はしゃがんで下から見ること
▲続いて、こちらも大迫力
ーー当館を代表する五葉松(ごようまつ)です。
「『どうぶつの森』に出てきそうな木だー! 私、いまハマってるんですよ」
ーー中央に空間を作って余白を持たせているでしょう。盆栽鑑賞の基本はしゃがんで下から見ること。自分が小さくなったような気持ちで盆栽の世界に入り込むんです。
▲先生の教えを自撮りで実践するえりかちゃん
「これもツイートしていいですか?」
ーーどうぞどうぞ(笑)。
観葉植物よりは手間がかかるが、そのぶん育てていくうちにかわいくなる
ーーさて、ショップに戻ってゴールです。ひと通り巡ってみて、どうでしたか?
「おじいちゃんはもうお墓の中だけど、連れてきてあげたら喜んだだろうなぁと思いました。あと、自分でも育ててみたくなりました。植物を育てたことが一度もないんですが、大丈夫でしょうか?」
ーー観葉植物などよりは手間がかかりますが、育てていくうちにかわいくなりますよ。
▲ショップの一番人気は「まめな盆栽」という枝豆味のせんべい(80円)
「あ、サイダーもある! 『盆栽だー!!』だって(笑)」
▲こちらは200円
ーー炭酸が強めで飲むと口の中がチクチクします。松の盆栽をイメージしているので(笑)。
お父さんが剣道をやってるから、プレゼントしようかなと思って
「私、これ買います」
ーー盆栽手ぬぐいですね。ご自分で使われるんですか?
▲小粋なデザインの1枚をセレクト(800円)
「お父さんが剣道をやってるから、プレゼントしようかなと思って」
ーーさっそく、PR大使になってくれてありがとうございます。
「こちらこそ、ありがとうございました。盆栽のかわいさを伝えられるようにがんばります」
▲「うふふ、どんな盆栽を育てようかな〜」
取材協力:さいたま市大宮盆栽美術館
撮影:池田博美