- 菅原さくら
- 1987年の早生まれ。ライター、編集、雑誌『走るひと』副編集長など。人となりに焦点を当てたインタビューや対談が得意。雑誌やWebメディア、広告・採用、コピー、パンフレットなどさまざまなものを書きます。
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対等なパートナーでいたいから、育児も家事も“手分け”する【夫婦のチームワークvol.2】デザイナー・タカハマ ケンタさん
子育て中の家族が楽しく暮らすには、家事や育児を上手に分担したり、お互いの仕事を励まし合ったり……夫婦の自然な支え合いが欠かせません。本連載『夫婦のチームワーク』では、家事や育児を“自分ごと”として取り組む男性にインタビュー。妻とのパートナーシップや家事・育児に対するスタンスについて伺います。
東京都内でデザイナーとして働くタカハマ ケンタさん(33)。印刷会社勤務の奥様(34)と結婚をして、4歳と1歳の兄弟に恵まれました。
お互いに仕事や趣味を謳歌していた新婚時代から、家族が増えて、暮らしはどのように変わったのでしょうか。
“分担”ではなく“手分け”が、家事や育児を“自分ごと”にする
――結婚をして8年。産前と産後で、暮らしはどのように変わりましたか。
子どもが産まれるまでは、お互いわりと気ままに暮らしていました。残業や飲み会で終電になるのも、週末は遠くまでツーリングに行くのも、自由。それぞれに仕事や趣味を楽しみながら、家事もうまく手分けできていたと思います。
でも、1人目の子どもが産まれて妻が育休を取っているとき、ちょっとした産後クライシスを迎えて……わかりやすい口論や衝突があったわけじゃないけれど、お互いイライラする時間が増えて、どうもうまくいかない時期がありました。
原因は、妻の暮らしだけが大きく変わってしまったこと。育休中の妻は自分の時間がなくなったうえ、周囲から認められる機会も減り、日々ストレスが溜まっていました。僕は自由に仕事をして帰りも遅いうえ、妻に対する気遣いやねぎらいもほとんどなく、余計に妻のストレスを大きくしたのだと思います。
ただ、僕からすると、育休中の妻が僕より育児負担が多いのは、致し方ないと考えていました。共働きとはいえ、40年間働き続ける覚悟があるのはこちらなので、少しでも成果を出して稼ぎを増やすことこそ、僕の責任。だから仕事量は当然、仕事に関連する付き合いもできるだけ減らしたくなかったんです。
また、職場には子育てをしていない人もいるなかで、子育てを理由に働き方に制限をかけるのは、周囲に対してフェアじゃないという思いもありました。なので、僕も仕事でエネルギーを使い果たし、帰宅して妻の機嫌を気にすることがただただ辛くなってしまったんです。でも、こんな状況では、仕事も家庭も持続的ではなかったなと思います。
――その状況を、どんなふうに打開したんでしょうか。
とにかく思っていることを話し合って、お互いのしんどさを共有しました。妻は穏やかな性格だったので、子どもを産んでから急にイライラする瞬間が増えたことにはびっくりしたけど、本人だってしたくてしているわけじゃない。彼女もつらいんだと受け止めて、僕も行動を変えていこうと思うようになりました。
もともと時間を見つけて育児をしてはいたけれど、完全母乳でも僕が授乳を代われるように哺乳瓶を買ってきてみたり……まぁ、そのアクションはちょっとずれてたみたいだけど(笑)。でも、できるだけ負担は分け合いたいので、いまもやれるタスクはやりたいと思っています。
ただ、僕自身が“言われなくても淡々とやる”タイプだということもあって、何かしてもらったときに上手くねぎらったり、感謝することができないんです。もちろん、会社とか対外的な場ではちゃんとするんだけど、家族にあんまりそういう気遣いをしたくないし、自分も気遣われたくないというか……どうしても、家族に対しては気恥ずかしさのほうが強いんですよね。
だから、妻が本当はもっと「ありがとう」って言ってほしいんだろうとはわかっていても、それがうまくできません。これはもう、自分でも認識してる欠陥です(苦笑)。それでも最近は昔より言葉にする場面が増えたと思いますが、妻いわく「わざとらしく聞こえる」そう。まぁ、努力“だけ”は伝わっているみたいです……(苦笑)。でもそのぶん、皿洗いや洗濯、部屋の片付けなど、言われなくてもやるようにはしています。
――言葉がなくてもそれだけ分担してもらえれば、充分納得できると思います。
妻とは、お互いに対等なパートナーでいたいんですよね。妻は僕が苦手なことを得意としていたり、フォーマルな社交性や育児に対する責任感の強さを持っていたり、尊敬できるところがたくさんあるから。だからこそ、家事や育児も「分担」より「手分け」という言葉のほうがしっくりきます。
たとえば、僕らが役割を決めているのは、保育園の送りとお迎えくらい。朝は僕が送って、妻が迎えに行く以外のタスクは、そのとき手の空いているほうがやるんです。もちろん総量をみれば妻のほうが多くやってくれているんだけど、「妻の仕事」「僕の仕事」と分けないことで、いつも柔軟に対応できる気がします。
また、仕事に対する『フェア』の考え方も変わりました。否応なく制限をかけざるを得ない人もいる組織において、多様性が共存できることこそ本当の『フェア』だと考えるようになりました。
育児を効率化する“ストレスのない家”
――ご自宅が本当に素敵ですよね。玄関からリビングの導線上に洗面台があるのは、子育て家庭にベストなレイアウトだなと思いました。
帰宅してそのまま手を洗ったり、朝はみんなで身支度できるから、すごく便利なんですよね。子どもが生まれてから、効率的な家を作りたいと思うようになり、いろんな物件を見て回ったんです。
吟味した結果、中古のマンションをリノベーションすることに。子どもが傷をつけても気にならない無垢材の床に変えたり、すべての家具の脚をルンバが入れる高さにそろえたり、日常生活でストレスを感じなくていい家を目指しました。部屋はちょっとコンパクトだけど、忙しい子育て期間は、使い勝手のいい間取りが重要かなと思って。
▲3人でも広々と使える洗面所。4歳の兄はスツールに乗って、1歳の弟は洗面台にのぼって、みんなで楽しそうに歯みがき
――インテリアも、おしゃれなのに子どもらしさもある、不思議なテイストですね。
デザイナーズ家具にIKEAや無印良品をくわえて、子どもらしさはあるけれど大人もくつろげるインテリアに揃えています。妻と2人で暮らしていたときは出歩いてばかりいたけれど、いまは家にいる時間が圧倒的に増えたから、居心地のいい空間にしたかったんですよね。
▲メキシコのリゾートチェアをリデザインした「アカプルコチェア」。もともとアウトドアで使うものなので、子どもがジュースなどをこぼしても、拭けばまったく気にならない。赤ちゃんのころは、バウンサーとしても使っていたそう
――子育てで心がけていることはありますか?
いろんなところに連れて行くことですね。自分の趣味がドライブだから、それも兼ねて。子ども中心で考えすぎるとしんどくなってくるけれど、行ったことのない公園に行くなら、自分も飽きないじゃないですか。おもちゃも一緒に遊べるものを選んだりして、子育て自体が自分にとって楽しいものになるように工夫しています。
赤ちゃんを愛でるのはそれほどでもなかったけれど、外に連れ出してコミュニケーションを取れるようになってから、ぐっと子育てが面白くなってきました。妻に一人の時間を取ってもらうために、週末は僕と子どもたちだけで出かけることも結構あります。
▲子どもはストライダーで、自分はスケボーで公園を走り回ることも
それから、ずっと趣味で写真をやっていたので、子どもの写真を撮るのも好きですね。どんどん成長するし、動きも予測できないから、被写体として面白い。彼らが結婚式を挙げることになったら、子ども時代の写真には困らないと思います(笑)。
一人の時間は減ったけれど、そこまでなにかを我慢しているような感覚はありません。子どもがいないと出会えない知識や経験も得られるし、子育ては子育てで面白いと思っています。もちろん、妻とうまくいかなかったり、子どもがわがままを言ったりすることはあるけれど……ぜんぶ不可抗力。誰も嫌がらせでイライラしたり、泣きわめいてるわけじゃありません。そのときどきで妻とお互いの気持ちを共有しながら、「そういうもんだよ」って、肩の力を抜いてやっていけたらいいかなと思っています。
▲タカハマさんのInstagram(アカウント@takahummer)より。兄弟の育児やインテリア、デザインなどに関わる写真を投稿中
撮影:NORI