藤岡みなみ
1文筆家。暮らしの中の異文化をテーマにした『パンダのうんこはいい匂い』
(左右社)が発売中。
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目次
植物のケアはセルフケアに似てる。
ずっと「ごめん」と思っていた。
それは、部屋に置いている観葉植物たちに対してである。
たまに思い出したように水をやって、枯れた葉があれば取り除く。
そんな最低限の世話しかしないでいたら、どの子もだんだん弱ってきた。
申し訳ない。
適切に世話をしていれば、今頃もっと大きく青々と成長していたかもしれないのに。
そこで思い切って、植え替えをすることに決めた。
今より一回り大きい植木鉢を買ってきて引っ越しをする。
土も新しくして心機一転、これで観葉植物たちが機嫌を直してくれるといい。
やわらかくなった根がちぎれたりするといけないので、植え替え前の数日は水をやらないようにした。
雑に扱うと、この植え替えをきっかけに枯れてしまうかもしれない。
それだけはなんとしても避けたい。
引っ越しは勇敢かつ慎重に。
まずは、ホームセンターにかわいい色の植木鉢を買いに行った。
情けないことに購入から3年以上経つというのに、買った時の黒いポットに入れたまま育てていた植物もある。
もともと少なかった土はさらにぎゅっとなり、固くひきしまっている。
見ているだけで肩が凝る。
呼吸もしにくいだろう。
ポットからはずして、土と根をほぐしてやる。
私も疲れるとよくもみほぐしの店に行く。
自分がしてほしいように優しくもんだ。
お客さん、疲れてますねぇ。
植物がふぅ?と深呼吸する声が聞こえてくるようだ。
固まった土や腐った根を取り除くと、植物の素の姿が現れた。
なんだかいつもよりずっと頼りなく感じる。
いつもは土や植木鉢も込みの存在として観葉植物のことを見ていた。
でも本体はこんなに小さく繊細なのだ。
守りたい、この緑。
▲根っこだけになると、か弱い存在。
新しい鉢の底に軽石を入れた。
水はけが良くなり虫の侵入も防げるらしい。
こんな一手間も以前はしていなかった。
生きている植物たちに、心地よい環境を用意してあげたい。
新しい土は私もそこで眠りたいくらいふかふかだ。
植物が倒れないようにしっかり支えて、軽く押しながら土を足していった。
まだ入れ替えたばかりだから活着もしていないのに、葉っぱの表情がさっきより少し明るく見えた。
▲底に軽石を入れてあげる。
最近、立て続けに何人かの税理士さんと面談をした。
長らく個人事業主として活動してきたが、小さな会社を立ち上げてみるのもいいのかもしれない、と考え始めたのだ。
これまで取り組んできたプロジェクトを、個人ではなく法人という器に入れる。
そのことで気分も新たに、より精力的に取り組めるのではないかという気がした。
観葉植物の植え替えをしていてふと思う。
そんなふうに新しい環境を作ることは、私自身を植え替えるということなのかもしれない。より大きく育つかどうかはわからない。
それは自分の頑張り次第だし、どんどん大きくなることが正義だとも思わない。
だけど少なくとも風通しが良くなって、新鮮な気持ちで前を向くきっかけになるのは確かだ。
気づかないうちにかちこちに固まった心と身体をストレッチして、裸の根っこを見つめる時間。
それはきっと、大きくて深い深呼吸。
私の根っこをじっくり観察した後、土を新しくして同じ器に戻したっていい。
ほぐすだけでも意味がある。
▲水をたっぷり、気持ちよさそう。
植物たちの引っ越し作業を終えた後は、植木鉢の底からあふれるまでたっぷりと水をやった。
今までと違って、きちんとごくごく飲んでくれている感じがする。
しばらく静かなところで休ませてから、部屋の明るい場所に戻す予定だ。
植物たちの休息。
復帰後のためにちょっと素敵な植木鉢カバーも用意してある。
私もリフレッシュしてみようかな。
長らく面倒で取りかかれなかった植え替え作業をしてみたら、想像以上のインスピレーションと勇気をもらったのだった。
▲心機一転、リフレッシュした植物たち。