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暮らしの工夫
津久井 玲子

今さら人に聞けない!日本の正しい食事のマナー

海外の食事でもマナーがあるように、日本料理にもマナーがあります。しかしそれらのマナーは、日本人ですら知らないことが多いというのです。ひょっとしたらあなたも間違って覚えているかもしれない、日本料理の正しいマナーについてご紹介します。

日本人でも意外と知らない食事のマナー

接待や上司との会食など、日本の伝統的な料理で食事する機会は多いものです。しかし、そんな食事の席でのマナーは、日本人でも意外と知られていないものだといいます。大事な会食でマナー違反なことをしていたらと思うと、ぞっとする人も多いのではないでしょうか?

 

そんなことにならないように、今のうちに日本の食事マナーを再確認しておくことが大切です。普段の食事からマナーを意識して過ごしていれば、大事な食事の席で間違える心配も減ります。いつでも会席に出席できるように、日本料理の正しいマナーについて学んでおきましょう!

 

 

日本料理での会食でおさえておきたい基礎知識

食事のマナーも大切ですが、会食に向かう前におさえておきたい事柄から見ていきましょう。日本料理でも食事の場におもむくのに適した服装というものがあります。日本料理といっても、さまざまな種類があることも忘れてはいけません。お店に行く前に知っておきたいことをまとめました。

 

 

服装

「日本料理なのだから着物で行かないと」と思う場合もあるかもしれませんが、服装を決める前に食事をするお店にドレスコードの確認をとりましょう。お店によっては服装についてお願い事があったり、ドレスコードが定められていたりすることがあります。

 

もし、食事をするお店でそれらの指定がなかった場合は、その会食の場を乱さない服装であれば問題ありません。避けたい服装としては、色やデザインが悪目立ちするものや露出が多いもの、普段着を思わせる軽装、食事中に食器を傷めかねない装飾品などがあげられます。

 

メイクもナチュラルで控えめに抑え、髪も自然な雰囲気になるようまとめておくのがマナーです。使う化粧品にも配慮を忘れないようにしましょう。香りの強い香水や整髪料、柔軟剤などは使ってはいけません。料理の味の1つである匂いを消してしまうので、同席者にとっても迷惑になります。

 

 

日本料理の種類

日本料理(和食)には、さまざまな形態をもった料理があります。「本膳料理」や「懐石料理」、「会席料理」や「精進料理」といった伝統的なものだけでなく、「本膳料理」を基本として簡略化することによって生まれた「袱紗料理」や、今でも晴れの席や季節の節目などに欠かせない寿司、そば、天ぷら、フグといった専門料理も馴染みの日本料理です。

 

そんな伝統的な日本料理の中で、「本膳料理」は冠婚葬祭などでふるまわれる儀式的な宴会料理といえます。確立したのは室町時代で、最も古い歴史を持った和食のルーツともいわれている料理です。本膳と呼ばれる基本の料理として、飯物(ご飯)、一般的に「椀物」と呼ばれることが多い汁物(お吸い物)、香の物(漬け物)がコースの中心となっていることから、こう呼ばれています。

 

「精進料理」は中国から禅宗と一緒に伝わったとされる料理で、鎌倉時代から定着した料理です。殺生を避ける宗教観から、動物性の素材は一切使われません。そのほかにも臭いの強いニンニクやニラなどのネギ類も使わないのが特徴です。うどんやそうめんなども精進料理から生まれた料理といわれています。

 

「懐石料理」は茶道のおもてなし料理として、禅宗の修行僧の食事をベースに考案されました。茶会の主催者である招待主が、招待客を茶会で接待する前にお腹が空いたままではと軽い食事を出したのが始まりで、茶道にも通じる旬の食材にこだわり、本膳料理を簡略化した食事です。あくまで茶を楽しむための、簡易的にして素朴な料理が持ち味です。

 

「会席料理」は江戸時代に発展したおもてなし料理で、宴会をはじめ、結婚式など特別な席で最もポピュラーにふるまわれる料理になっています。特徴として、簡略化した本膳料理の懐石料理に当たる部分を、その会食の席の内容に合わせて豪華にしたもので、現在でも会食といえばこの系統が主流です。

 

会席料理は、現在では懐石料理と大差のない意味で使われていますが、ルーツも内容も異なっています。そのため懐石料理を会席料理と明確に分けるために、「茶懐石料理」と別の呼び名が使われるようになりました。実際、会席料理はお酒に合う、懐石料理よりも豪華な品目が多いのが特徴です。

 

 

日本料理の基本のマナー

まずは会食の席で参加者ともども気分よく食事を楽しむための、日本料理の一般的な基本マナーから再確認していきましょう。おさえておきたいポイントをご紹介します。

 

 

配膳

普段意識して配膳することは少ないでしょうが、それぞれの器を置く位置にははっきりとした意味があります。配膳の決まり事は、日本の伝統的な位置の見方である「左上位」の考え方に沿って、食事の主役でもある飯物(ご飯)を左側手前に配置するというのが正しい決まり事です。

 

そして主役であるご飯の右隣には、お吸い物をはじめとした汁物が定位置といて置かれます。注意したいのは、ご飯と汁物を逆に置くと、仏壇へのお供えを意味することになる点です。相手に失礼になるので間違えないようにしましょう。

 

「菜」はさまざまなおかず類を表し、すべての器が相手から見た時に、お膳の奥側になるよう配置するというのが正式な場での決まり事です。そのため、まずは菜の中でも一番場所を取る大皿で出される主菜は、空いている空間が一番広い右側奥に置きます。

 

次に副菜は、手で取りやすく持ちやすい大きさの小鉢を使うことが多いため、それほど置き場所を取らないことから左側奥に、副々菜も手に取って食べるのにちょうどよい大きさの小鉢が使われることから、大きい主菜と小さい副菜の間にできる、やや右側中央奥の場所が定位置になります。漬物である香の物は三菜に含まれないことから、飯物と汁物の間が定位置です。

 

お茶は湯飲みを取りやすいように右側に、締めのメインでもあるお茶菓子やデザート類は、空いているお茶の左側に置くようにします。もちろん箸やスプーンなどは、利き手側の右側に持ち手がくるよう配置してください。

 

ここまでは右利きの人用の配膳についてご紹介しました。では、左利きの人用の配膳はどうするのでしょうか?日本では左上位の考え方や、宗教的に配膳の位置を変えると仏壇へのお供えになってしまうことから、箸の向きだけを逆にするのがマナーです。間違えないようにしましょう。

 

 

食事の順番

海外の料理でもそうですが、日本でも料理は順番を守りながら食べるのがマナーです。まず最初は、素材の味を活かした薄い味付けの料理からいただきましょう。味の濃い料理から食べ始めると、次に食べた料理の繊細な味付けや風味が感じ取りにくくなってしまいます。

 

会席料理では、まずは食事の前にお酒とその肴である先付けと呼ばれる料理が出されることから始まります。ただし、日本料理全体として見た場合は、汁物からご飯、味が濃くなりはじめる主菜、しっかりした味付けの副菜の順でいただくのがマナーです。汁物を先にいただくことで、後の料理が箸につきにくくなる効果もあります。

 

もともと配膳は食べる順番も意識した形になっていることが多いことから、左から右の順で手前側から食べ始め、次に奥側に箸を伸ばすように意識してください。

 

 

箸の使い方

昔から日本では「箸は三手で持つ」といわれ、箸を手に取る菜の所作にもはっきりとしたマナーがあります。定められた3つの動作を、定められた手順に沿うよう配慮しつつ、ぎこちなくならないよう流れるように自然な動作で行いましょう。

 

まずは箸の中央部分を右手の親指と人差し指の2本を使い、箸の上の方からつまむようにして持ち上げます。箸の下に左手の平で全体を支えるように添えてから、右手を滑らせて持ち手まで移動させてください。

 

続けて右手を返して箸の下を支えるように移動して、右側の端から1/3あたりを右指先で持ち直し、添えていた左手を離すだけです。箸を下ろす時には持ち上げる時とは反対の流れで行い、あれば箸置きの上に、なければお盆やお膳の縁に置くとよいでしょう。箸置きがない場合には、箸袋を結んで箸置きを作っても大丈夫です。

 

割り箸が出てきた時には、通常の箸を持ち上げる時と同じように、中央部分をつまんで持ち上げてから、ひざ上あたりを目安にそのまま運んでいきます。そして音がたたないよう気をつけながら、上下に割ってください。

 

割り箸でよくあるささくれができてしまった時には、手で取り除きます。膝上まで持ってくるのは食器に当てないためです。そのためテーブルの上で気にせず箸を割る行為は、配慮不足ととられる行為になります。

 

会場によっては箸を出す時に上品に箸留めを使って、2本を1本にまとめるように留められた状態で配置されていることもあるので、その場合のマナーも覚えておきましょう。普段見慣れていない箸留めでも、扱い方を知っていれば慌てる必要はありません。

 

箸留めのはずし方は、箸留めを下で支えるように添えている左手で持ってから、右手を使って片方ずつ上品に優しく引き抜きます。割り箸の場合は、箸を取り上げた時に左手を滑らせるように動かして抜き取ってください。

 

また、箸を使う時には下の箸は動かさないように固定して持ちます。上の箸だけを動かして食べるのが正しい箸の使い方なので、持ち方を練習しておくとよいでしょう。

 

そしてもう1つ意識しておきたいことは、箸は先を汚さないように配慮しながら食べることも大切なこと。「箸先五分、長くて一寸」といわれ、食べ終わった時に汚れているのは3cm以下におさえるよう食べるのも大切なマナーなので注意してください。

 

 

食べ終わった器の扱い方

器に盛られた料理をすべて食べ終わった後は、配膳された時に置かれた位置と全く同じ場所に食器を戻すようにします。器が傷ついたり、汚れが広がったりする恐れがあるため、使い終わった食器を重ねるのはマナー違反です。

 

箸も使い終わりを示すように、箸置きの上に置くか、箸袋がある場合には袋の先端を下に折り込んだり、結んだりした後に箸を入れて置きます。箸置きがなく、箸袋を箸置きに使っていた場合は、箸先が隠れるように箸袋の結び目の先に入れてかくしておきましょう。

 

もし箸置きも箸袋もなかった場合には、お膳からはみ出さないように器の縁に立てかけるようにして置いたり、器の手前側にそろえてから置いたりしてください。置き場所がないからと器の上にのせたり、割り箸だからと折ったりするのはマナー違反です。

 

 

和室での立ち居振る舞い

食事の場となるのは、多くの場合が和室です。最近では住宅も洋式化が進み、食事はいつもテーブルという家庭も増えています。そのため和室内での立ち居振る舞いも再度見直して、問題ないか確認しましょう。

 

和室に入る時にまず気をつけたいのは、素足で入室してはいけないということです。必ず靴下やストッキングなどを履いて入室しましょう。ストッキングだけの場合は伝線してもよいように替えを用意しておくと安心です。

 

和室でやりがちなのが、入室時に敷居や畳の縁を踏んでしまうことでしょう。敷居を踏むことはその部屋の持ち主をないがしろにする行為に当たります。特に畳の縁はその部屋の持ち主の身分が反映され家紋などが入っていることもあるため、踏むことは相手を軽んじる行いとされるので要注意です。

 

また、ほかの国でもあるように、日本でも席次というものがあります。日本の席次は出入り口が最も遠い、床の間を背にした席が上座です。逆に出入り口に最も近い席が下座になります。上座は招待者や目上の人の席なので、間違えないようにすることが大切です。

 

席に着くにもマナーがあり、まずは下座の畳の上で正座で待ちましょう。専用の席が用意されている場合でもすぐに座布団に座ったりせずに、まずは座布団の下座で正座したまま声がかかるのを待ちます。

 

やがて入室してきた招待者や目上の方が、用意された席に座るように声がけしてくれるので、そこで座布団に座るのが正式なマナーです。

 

座布団に座る時も、座布団の位置はそのままで動かしてはいけません。座布団の位置は、相手からの「この位置にお座りください」というメッセージなので、座布団を移動させるのはマナー違反です。

 

「和室だから正座」とはいえ、いつまでも正座のままというのはつらいという人もいることでしょう。正座を崩しても相手にとって失礼にならないタイミングとは、乾杯をすませて食事が始まったその時です。

 

ただし、いくら正座を崩したとはいえ、美しい姿勢に見えるよう背筋は伸ばしておくなど、見た目を常に意識して座り続けることを忘れてはいけません。同席者から常に見られているという意識を持って、不快感を与えないよう心掛けましょう。

 

 

日本の会席料理での食事のマナー

日本料理にはひとくくりにできないほど、さまざまな種類があることはご紹介しました。ここではその中でも特に経験することが多いであろう会席料理を例にとり、マナーを料理の出てくる流れに沿って詳しく解説していきます。

 

まずは会席料理がどのようなものか基本から確認してみましょう。まず献立の基本は一汁三菜で、内容としてはお吸い物を椀物(一汁)とし、お造り(お刺身)、焼き物(丸魚や肉など)、蒸し物(煮物など)を三菜(おかず)として供するのが一般的です。

 

まずは料理のコースの先駆けとして、先付けと呼ばれる季節を意識した酒の肴(酒菜)やお酒に合うように吟味された揚げ物、酢の物などが最初に出された後、本格的な料理が順にふるまわれる流れになります。

 

そして、そろそろコースが終わりに差しかかっていることを示すご飯、止め椀、香の物がひとまとまりで出されるので、お酒はそこまでとなり以後は追加できなくなるので要注意です。そしてコースの本当の締めとして、水菓子などのデザートとお茶がふるまわれる形式で進むと覚えておきましょう。

 

「菜」の数は陰陽五行説の影響から、陰の数である偶数よりも陽の数である奇数の方が縁起がよいとされます。そのため「菜」の数は通常奇数であり、コースの進み具合の目安にするとよいでしょう。

 

 

先付け

前菜やお通し、突き出し、八寸、口取りなど呼び名はさまざまですが、コースの始まりとして、酒の肴に季節を意識した素材で作られた焼き物などがふるまわれます。まずは美しい盛り付けを目で見て楽しんだ後にゆっくり味わって食べましょう。

 

盛り合わせ料理の場合、せっかくの盛り付けを崩して台無しにしないよう、作り手の気持ちに配慮します。まずは左手前から一口分の大きさに切りつつ、少しずつ時間をかけて食べすすめてください。

 

手の平よりも大きくて、力を入れないと持ち上げられないような大きさのお皿に盛りつけられて出てきた料理は、お皿をわざわざ持ち上げたりせずに、そのままテーブルに置いたままの状態で食べて問題ありません。

 

ただし、小鉢やお椀などのように手の平に収まるような小さい大きさの器の場合はまた別です。食べる時にはテーブルの上に置いたままにせず、必ず器を手に取って持ちあげてから食べるようにしましょう。

 

串に刺さって出てくる串物は、1つずつ箸で優しく引き抜いてから一口分の大きさに切り、それからいただきます。残った串はお皿の奥側の端に置いてください。面倒だからとそのまま口に運んだり、串に刺された素材をまとめて引き抜いたりするのはやめましょう。

 

先付けはコース料理の中の一品というよりもあくまで酒菜なので、まずはお酒を一口飲んでから一口食べるを交互に繰り返していただきます。日本料理では基本のマナーとして一つのものだけを一息で食べきるのはマナー違反です。気をつけながらいただきましょう。

 

 

椀物

先付けがすんで会食が本格的に始まると、続いて椀物と呼ばれるお吸い物をはじめとした汁物(一汁)が登場し、ここからが本当のコースのスタートです。季節によっては土瓶蒸しが出てくることもあります。

 

椀物は、目の前に配膳された瞬間に「すぐに蓋を開けて冷める前にいただこう!」と感じる人が多いことでしょう。しかし、これにもきちんと順番があり、まずは目上の人が先にあけてから続けてあけるようにします。

 

椀物の蓋はあけるのになかなか手を焼くことが多いものです。力ずくであけようとすると、器を傷つけてしまいます。そのためまずは器に左手を軽く添えてから、右手の親指と人差し指、中指で蓋をつまむように持ち、右手の残りの指も蓋に優しく添えてから、半月を描く感覚で蓋を回しながら、ゆっくりと持ち上げるようにするとあけやすいです。

 

蓋の内側の水滴を器の上で蓋を立てて中に落としてから、そのまま蓋を裏返した後にすぐにテーブルの上に置いてはいけません。左手の平の上に一度置いてからその後テーブルの上に置きます。

 

蓋の置き場所は、器が配膳された位置によって決めてください。右側に配膳された場合は右側奥に、左側の場合は左側奥にと配膳された位置に沿って置くのが決まり事です。

 

椀物は、蓋を取ったらまずは汁から立ち上る香りを楽しみましょう。そしてまずは汁を一口だけ味わうようにいただき、それからはじめて汁の中の具を、一口に収まりきる程度の大きさに箸で切り分けてからいただくようにします。

 

切った具を口に運ぶ際にも注意が必要です。つい先ほどまで汁の中に入っていた具からは、汁がしたたり垂れそうになっている場合があります。そんな時は、汁を垂らすことで周囲を汚さないよう配慮して、蓋を受け皿の代わりとして使うようにすれば問題ありません。

 

椀物だけに限らず料理をいただく時は、日本料理の基本の決まり事に沿って、まずは汁を一口いただいたら次は具を一口いただき、再度汁をいただいてからまた具をいただく、とそれぞれを交互になるよう口に運び、異なる風味を楽しみながらいただくのがマナーです。

 

もし貝類の入ったお吸い物の場合には、身を食べた後の殻は器から出しません。最後までそのままの状態でいただき、食べ終わったら中身の殻も入れたままで、配膳時と変わらない見た目に戻すように蓋をします。ときどき蓋を斜めに被せる人がいますが、器を傷つけてしまうのでマナー違反です。

 

土瓶蒸しの場合はどうしたらよいのでしょうか?まずは器の蓋は取らずに、そのまま中の出汁をお猪口に注いで香りを楽しみます。注いだ出汁には何も足さずに、まずはそのままの味でいただいてください。

 

最初の一口を味わったら蓋をあけ、蓋の水滴を周囲の膳に垂らさないよう配慮しながら裏返し、土瓶の脇に邪魔にならないよう置きます。すだちが添えられていた場合は、蓋を開けた後に土瓶の中に絞ってから、蓋を閉じて10秒ほど蒸らしましょう。お猪口の中に絞っても、先ほどとは違った風味を楽しめます。

 

後は土瓶に入った具材と出汁を、それぞれ交互にいただきながら味わうのがマナーです。土瓶の中の具をすべていただき終わったら、お吸い物が出てきた場合と同じように元の形になるよう蓋を閉じます。すだちの残りは土瓶の中に入れたりせずに、使ったままの状態で土瓶の蓋の上に置いてください。お猪口はすだちを隠すように被せておけば大丈夫です。

 

 

お造り(お刺身)

「向付け」の名で出てくることもありますが、内容は同じです。基本の盛り合わせは、あっさりとした白身魚や貝類と、こってりした赤身魚の組み合わせになっています。お造りが船盛で出てきた場合は、一番目上の人から順々に取っていくのが決まり事なので、きちんと順番を守りましょう。

 

食べ方は、盛り付けが崩れて見た目が悪くならないよう配慮しながら、味のあっさりした白身魚や貝類から、またはほかの料理と同様に、決まり事として左側から順に食べていくのがマナーです。刺身に添えられたツマや薬味は食べても食べなくても問題ありません。

 

お造りのしょうゆが垂れないか心配な時は、しょうゆ皿を持って食べます。気をつけたいのは、わさびを使う時です。しょうゆに溶かすのではなく、箸で必要なだけの量を取ったらそのまま直にお造りの上にのせて、わさびがしょうゆにつかないよう持ち上げていただきましょう。

 

 

焼き物・鉢肴(はちざかな)

会食も中盤に差しかかると、一般的な尾頭付きの魚のほかにも、エビやカットされた肉類などといった焼き物が出てきます。食べやすい大きさにカットされた焼き物ならよいのですが、尾頭付きの魚の場合は、その食べ方にもいろいろと決まりがあるので覚えておきましょう。

 

アユなどの小ぶりな焼き魚の場合は、先に中骨を抜いてしまいます。身離れをよくするために箸で数か所を押してから尾の付け根を折り、左手で魚の頭を持ってからそのまま骨だけを引き抜いてください。

 

一方でアジやサンマといったそれなりの大きさの焼き魚の場合は、頭が左側を向くようにお皿にのせられて出てくる決まりです。食べ方も同様に先に頭側である左から右に向かって上半身から食べます。続いて左側から下の身を食べたら、中骨と裏の身の間に箸先を入れていくだけでも簡単に身が離れるので、骨だけを引き上げて取り除いてください。

 

取り除いた骨は器の奥側に置き、裏の身も表の身と同じように決まり事に沿って左側から順に食べていきます。ほかの料理同様、一気に食べきるのはマナー違反です。少しずつ食べるようにしましょう。皮が苦手な場合や食べにくい種類の魚の場合は、皮を残してもマナー違反にはならないので安心してください。

 

焼き魚に専用の薬味がついて出てきた時には、わさびをしょうゆに溶かすのはマナー違反ですが、ネギなどの薬味はしょうゆに入れて大丈夫です。食べ終わった後は残った骨を半分の長さに折ってから、頭など残った部分をすっきりとまとめてから器の左側奥に置きます。

 

貝類やエビの殻も、取る時には手を使って取り除きましょう。このように箸では大変な作業を必要とする場合まで、必ず箸でなければいけないということはありません。しかし、直接魚の頭やエビの殻などに触れると、手を汚すことにもなってしまいます。そこで懐紙(かいし)と呼ばれる紙を使って作業するとよいでしょう。

 

懐紙とは、箸についてしまった汚れなどをキレイに拭き取ったり、手を使って作業する時に直接触れるのを避けるために使ったりする、和食の席では用意しておきたい必需品ともいわれる紙です。口元を隠す時や、食べた後の残りを隠す時など、幅広い用途で使えます。焼き物を食べた後に残る骨や殻も、懐紙を使って目につかないよう隠すと上品です。

 

 

揚げ物

唐揚げや素揚げなど揚げ物にも種類がありますが、多くの場合は天ぷらが出されます。盛り付けを崩すことがないように、味付けが薄い手前の物から食べ始めましょう。イカのようにかみ切るのが大変なものが出た時は少しずつ口にして、何口かに小分けにしながらゆっくり食べすすめていきます。

 

口数がかかる揚げ物を食べる時に注意したい点は、一度箸で取り上げた料理を食べることなくそのまま再びお皿に戻すのは、れっきとしたマナー違反であることです。箸で持ち上げた料理は、きちんとそのまま最後まで食べるようにしましょう。その時、懐紙を使って口元を隠しながら食べると上品です。

 

天ぷらには味付けとして塩や天つゆが付いてきます。天つゆは垂れやすいものでもあるため、テーブルを汚さずに最後まで食べきるためにも、一口食べるごとに少量だけつけながら食すのがマナーです。

 

天つゆは通常、小皿に入れられて出されることから、そのまま小皿を持ち上げて食べてもマナー違反ではありません。ただし、口に近づけすぎては下品になるため、気をつけていただきましょう。

 

 

蒸し物

会席料理の定番メニューであり、煮物や炊き合わせ、強肴(しいざかな)などが出されることもあります。蒸し物でいえば、茶わん蒸しや酒蒸しなどが一般的で、アツアツの状態で出てくることから、やけどに注意していただきましょう。

 

蓋付きの器で出された蒸し物は蓋の扱いに困るかもしれませんが、基本の扱いは椀物と同様です。器は置いたままで大丈夫なので、箸や用意されたスプーンを使いながら、そのままいただいて問題ありません。大きい具材は器の中で切り分け、蓋を受け皿代わりにしていただくとよいでしょう。

 

そんな煮汁は直接口をつけていただいても大丈夫ですが、音をたてたり中身を混ぜたりしてはいけません。食事が終わった後も蓋の扱いに迷うかもしれませんが、あけた時と同様に椀物にならって元通りに戻しておきましょう。

 

 

酢の物・和え物

ご飯ものを出す前の一品として小鉢に入って出てくることが多く、時にはサラダが出ることもあります。酢の物などは汁気も多く、箸で取る時に汁が垂れそうで取りにくいものです。しかし、器として使われるのが小鉢なので、手で持ち上げて食べても問題ありません。

 

梅肉や酢味噌といった上にタレがかかった料理が出てきた時には、かき混ぜずにそのままいただきましょう。

 

量は小鉢なので少量ですが、一気に食べきったりせずにあえて何口かに分けながら、時間をかけつつ味わっていただくのがマナーです。

 

 

ご飯・止め椀・香の物

デザート前の締めくくりともいえる料理で、ご飯はお寿司や炊き込みご飯といった味付きのものが、汁物も味噌汁などが出てきます。椀物がわざわざ止め椀と特別な名で呼ばれるように、この3点が出てきたら会食も終わりが見えているので、お酒の追加はこの時点で終了です。

 

食べ方は、まず主菜でもある飯物(ご飯)から一口だけいただき、後は汁ものの次に香の物、そしてご飯と、これまでのほかの料理を食べた時と同じに、それぞれ一口ずつ順番にいただきましょう。

 

香の物の食べ方も独特で、器から直接口には運びません。ご飯を受け皿代わりに使いながら食しますが、ご飯そのものの上に直接香の物がつくように置きながら食べるのは、ご飯の味を損なうのでマナー違反です。

 

また、ご飯や汁物はおかわりもできますが、ご飯の時はわざわざ一口分ほど残してお茶碗を差し出します。待っている間は箸は下に置いておきましょう。ご飯のおかわりを受け取った後は、とにかくまずは一度、器をテーブルの上に置くこと。この所作をはぶいてご飯を口に運ぶと「受け食い(受け取り)」と呼ばれ、マナー違反になるので注意してください。

 

 

デザート・水菓子・お茶

コース料理が一通り済むと、最後にデザートや水菓子、お茶が運ばれてきます。フルーツの盛り合わせが出た時には、さっぱりした味のものや、酸味のきいたフルーツからいただきましょう。

 

メロンなど厚みのある皮は横倒しに置き、みかんの皮はそのままにせず折りたたみます。最後に残った種なども一か所にまとめて、懐紙で直接目につかないように隠すと上品です。

 

まんじゅうや羊羹などの場合には、お菓子ののったお皿や懐紙ごとまとめて手に取り、添えて出された和菓子用の竹楊枝などで、一口で食べられる大きさに切りながらいただきます。蓋付きのお茶は椀物と同じ要領であけてから、湯飲みの横に上向きにして置くのが定位置です。

 

 

日本料理でやりやすい間違った食事のマナー

普段の食事の習慣で、ついつい間違ったマナーを覚えてしまっていることは珍しくありません。正式な場でのうっかりをなくすために、今一度間違えて覚えていないかを確認しておきましょう。よくある間違いをまとめてみました。

 

 

食事中にやりやすい箸の間違った使い方

ほかの国の食事のマナーでもよくないとされますが、日本でもほかの国同様に「ながら行為」はマナー違反にあたり、箸を持ったままでほかの行為をすることは「嫌い箸」と呼ばれます。このほかにも箸にまつわるマナー違反は数多くあるので、やりがちなものを確認してみましょう。

 

箸をまるで棒を握るように持つ「握り箸」、箸を使って人を指す「指し箸」をはじめ、仏事に通じて縁起が悪いとされる料理に箸を突き刺す「刺し箸」や箸をご飯につきたてる「たて箸」、食べるものが決められず料理の上で端をさまよわせる「迷い箸」は当然のことながらマナー違反です。

 

ほかにも箸で器を引き寄せる「寄せ箸」、箸を小皿などに渡すように置く「渡し箸」、箸先を口の中でなめる「ねぶり箸」、箸を口に当てる方と持ち手と左右逆さに持ってから、通常持ち手としている側で料理を取る「返し箸・逆さ箸」、火葬場での骨の受け渡しを連想させる、ほかの列席者と箸と箸で料理をやり取りする「移し箸」も避けます。

 

また、料理を取りかけたのに食べるのをやめてほかの料理に箸を移す「移り箸・そら箸」、汁物の中を箸で探る「探り箸」、料理から汁気を十分に切らずに垂らしつつ口に運ぶ「涙箸」、箸についているご飯などを口でもぎ取る「もぎ箸」もマナー違反となる使い方です。

 

そして箸で器を叩いて鳴らす「叩き箸」、箸を使って口に料理をかきこむ「かきこみ箸」、箸を下に置いてから物を取るべきところを、そのまま手に持った状態でさらにほかの器や飲み物を手に持つ「諸起こし」など、かなりの行為がマナー違反となります。

 

割り箸の扱いにも数々の注意点があり、まっすぐ縦に持った状態で左右に割る、膝の上まで下ろさないままテーブルの上で気にせず割る、木くずやささくれを手で取らずにこすって落とす行為もマナー違反に当たるので、普段何気にやっていることがある場合は、うっかりやってしまわないよう注意してください。

 

 

おしぼりでやりがちなマナー違反

おしぼりは手を拭くために出されるものなので、おしぼりを使って拭いてよいのは手だけです。よく顔やテーブルなどを拭く姿が見られますが、日本料理ではマナー違反となります。

 

おしぼりは箸と同様に右手で取ってまっすぐ上に持ち上げてから、そのままの状態で左手に移して、広げてから両手を拭いてください。手をキレイに拭き終わったら、拭くのに使った面を内側になるようにして折りたたみ、もともと置いてあったおしぼり台の上か、台がない場合にはテーブルの上に直接置きます。

 

口が汚れてしまって汚れを拭き取りたい時は、おしぼりは使わずにそのための懐紙をあらかじめ用意しておいて、それを使ってぬぐってください。また、テーブルが汚れてしまった時は、お店の人に伝えるようにするのが正式な場でのマナーです。

 

 

一見上品なのにマナー違反の手皿

手の平を超える大きさのお皿を持ち上げながら食べるのは明らかなマナー違反ですが、左手を受け皿のように受け止めようとする「手皿」も実はマナー違反です。汁気が垂れる恐れのある料理を取った場合や、箸からこぼれ落ちそうな料理は、料理を取るために用意された小皿か、懐紙を用意しておいて受け皿代わりに下に添えていただきましょう。

 

手皿のほかにも、マナーに気を取られすぎて知らず知らずのうちに前のめりになることも。せっかくマナーを意識していても、料理に顔を近づけて食べる行為は「犬食い」と呼ばれるマナー違反なのです。常に背筋を伸ばし、まっすぐ前を向くよう意識して食べましょう。

 

意外と普段何気なくやっていることにもマナー違反な事柄が多くあります。結婚式や接待など、会席料理の席に同席する必要にせまられた時には、数日前から箸の使い方などを確認しながら食事するなどして、正式の場でうっかりが出ないよう心がけるのも大切です。

 

 

おわりに

日本料理には独特のマナーが数多くあります。中でも箸のマナーは数が多く、普段から意識していないとついうっかり、ということが多いものです。今一度普段の食事風景を思い出し、どのくらいマナーに沿った食事ができているか見直してみてはいかがでしょうか?