
- Pacoma編集部
- このWebマガジンと月刊フリーペーパー『Pacoma パコマ』の編集部です。自分の手で心地よい暮らしをつくりたい、ホームメイドな人たちを応援する楽しい記事を日々模索中です!
気になる人物をクローズアップしてご紹介する『Pacomaコラム』。今回は、連載「四季を楽しむ山野鉢」でもおなじみの、塩津丈洋植物研究所・代表の塩津丈洋さんにお話を伺いました。
目次
東京・東久留米市にある「塩津丈洋植物研究所」 。
〝研究所〞と言われれば、大掛かりな実験道具が置かれた施設を想像してしまうけれど、教えられた住所を訪ねてみると、たどり着いたのはのどかな住宅街にある庭付きの一軒屋。聞けば、〝植物の魅力を多くの人に伝えたい〞という想いの元にさまざまな活動に取り組んでいる場なのだとか。
私たちを笑顔で迎えてくれた、代表の塩津丈洋さんに詳しくお話を聞くことに。
塩津丈洋植物研究所・代表。盆栽職人の元での修行を経て、2010年に独立。植物の治療・引き取りを行う活動を続けながら、庭づくりなどにも携わる。
塩津丈洋植物研究所の公式サイト
塩津丈洋植物研究所のFacebookページ
― こちらでは普段どんな活動を行っているのですか?
主に、調子の悪くなった植物の引き取りや治療、それから植物を用いた店舗などのディスプレー、さらに一般の方を集めてワークショップなども行っています。
― 塩津さんは植物の中でも日本の植物、特に盆栽がご専門だそうですが、昔から植物が好きだったんですか?
ええと、「小さい頃から植物が好きで」って、カッコよく言い切れればいいんですけど、実はそうでもなくてですね……(苦笑)。僕は和歌山の出身なんですが、地元がすごく田舎だったんです。だから、祖父の畑で毎日農作業したり、石垣を組むのを手伝ったりはしていました。
▲盆栽、苔玉のワークショップを随時開催している。
― では、塩津さんが「植物を仕事にしたい」と思ったのは具体的にいつ頃ですか?
大学3年生の時ですね。当時は名古屋の大学に通っていて、いよいよ就職活動という時期に、ようやく自分の将来を考えはじめて。そこで植物を選んだのは、単純に「好きだから」というよりも、「植物が自分にとってすごく身近だったから」という感覚に近いかもしれません。
― そして都内の盆栽職人の元に弟子入りした。
最初はいろんな業種の方に話を聞きにいくことからはじめました。”植物を生きる術にする”とはいっても、林業、生け花、フラワーアレンジメントなどなど……いろいろな種類がありますから。その中でたまたま自分にとっては、盆栽が魅力的に思えたというだけで。当時の状況によっては、今頃僕はバラを育てていたかもしれません(笑)。
― 研究所で行っているワークショップの生徒さんは現在どのくらいいるのですか?
月に100人ほどです。うち8割が女性で、あとの2割が男性です。
― やっぱり女性のほうが多いんですね。
どうしても、男性のほうが“家のこと”に目を向ける機会が少ないのかもしれません。でも、最近は男性の生徒さんもどんどん増えてきていますし、仕事で忙しい人にこそ、僕は植物と暮らしてほしいと思っているんです。
― それはなぜですか?
僕の教室の生徒さんで、一人暮らしのサラリーマンのお話をしますね。その方は毎日、早朝から終電まで仕事をしているので、はじめは朝の水やりも大変だと言っているほどでした。でもある時、植物のために15分早く起きるようにしたそうなんです。すると、水やりが10分で終わるので、残りの5分でコーヒーが飲めるようになったと。
植物は日々呼吸をする“生き物”なので、育てるのは決して楽ではありません。でも、手がかかる植物が身近にあることで、生活は自然と豊かになっていく。そういう力があると思うんです。人間の衣食住の中に決して必要なものではないけれど、植物が暮らしの中に入ってくるだけで、時間の過ごし方もかなり変わってくると思いますよ。
― その中でも特に、塩津さんが日本の植物に感じる魅力とは何でしょうか?
やっぱり、”生きている”ことを常に感じられるからだと思います。松やもみじ、桜にしろ、日本の植物は花も咲くし、紅葉もするし、葉っぱも散ります。それに、気温があたたかいと芽がどんどん動いてくるけど、寒くなると途端に元気がなくなったり。人間だったら、多少辛くてもガマンしてしまうじゃないですか(笑)。そんなふうに自由にのびのびと生きている感じが素直でいいなと思うんです。
▲植物の配達はこのスーパーカブで。「出張検診もやってます!」
― 管理に手はかかるけれど、手間をかけたぶんだけ期待に応えてくれる?
そうですね。例えば、水をあげると植物がすごく喜んでいるのがわかるんです。そういう無言のコミュニケーションって、男同士の関係にちょっと似てるかもしれない(笑)。
― 盆栽って、少しハードルが高いイメージがあったのですが、塩津さんに出会ってだいぶ印象が変わりました。
最近は、ホームセンターで土や苔などの必要な道具も揃えられますし、手軽ですよね。まずは小さな一つの鉢からはじめてください。
▲奥さんの久実子さんと二人三脚で研究所を営んでいます